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とある法務部員の備忘録。

某IT企業に務めるお気楽法務部員が、法律、ゲーム、生活、その他諸々を書き綴っております。

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法務系書籍レビュー(1) 「秘密保持契約の実務」

法務

法務なら誰しもが通る道

秘密保持契約の実務―作成・交渉から平成27年改正不競法まで

秘密保持契約の実務―作成・交渉から平成27年改正不競法まで

 

  今回は、法務系書籍のレビュー第1弾としまして、西村あさひ法律事務所の弁護士陣編著「秘密保持契約の実務」を紹介したいと思います。なお、この書籍レビューシリーズでは、単に書籍を読んだ感想だけを書くのではなく、その分野にまつわる基本事項などに触れつつ、これから法務を目指す方や法務1年生にも分かりやすい内容にしていきたいと思います。

 

 突然ですが、皆さんは、「会社の財産」と聞いて何を想像しますか?もちろん、お金もそうですし、建物や設備といった実物資産も立派な会社の財産です。「ヒト」もれっきとした財産でしょう。その中でも最も重要な財産のひとつに位置づけられるのは、やはり「情報」ではないでしょうか。

 というのも、会社はさまざまな情報を持っています。取引先リスト、経理関係書類、新サービスの企画案、まだ公開されていない特許技術、顧客の個人情報などなど。外部に漏れては困る情報ばかりです。ゆえに、どこの会社も、「自分たちが保有している企業機密情報をいかにして守るか」という点に専心し、情報セキュリティ体制を強化したり、情報の取扱いに関する社内セミナーを開いて啓発したりするのです。

 しかし、時には、自分たちの保有している企業機密を外部に開示しなければならない場面があります。その代表例がM&Aです。M&Aでは、買収会社が被買収会社の企業価値・株価を算定する必要がありますので、被買収会社に機密情報を開示してもらい、デューデリジェンスを実施し、財務状況等を事細かに調査します。

 そのまま、M&Aが妥結すれば良いのですが、交渉がまとまらず、ご破談になることも勿論あります。ご破談になったとしても、「企業機密情報を開示した」という事実を過去に戻って取り消すことは出来ません。そこで、目的外使用や第三者への開示・漏えいを防ぐために秘密保持契約(以下「NDA」:Non-Disclosure Agreement)を締結することが必須となってくるのです。

 

 なお、秘密保持契約を締結する場面は、M&Aに限られません。通常取引においても、企業機密の開示を伴う取引を開始する場合や個人情報の取扱いを委託する場合などには、NDAを締結することが多く、法務であれば誰しもが通る道といえます。

 大学・ロースクールにおいて、あまりNDAのことを勉強する機会はなかったかと思いますが、企業法務としてキャリアを積むにあたって、NDAは避けては通れないものと思ってください。

 

 

NDA実務のエッセンスが充実

 筆者的に、本著を読めば、NDAに関する必要不可欠な知識は漏れ無く習得できると思っとります。より深く、不正競争防止法やリスクマネジメントの一環として情報管理について学びたいのであれば、他の書籍を読む必要があるかもしれませんが、とりあえず、「NDAとはなんぞや?」という初心者の疑問に答え、それでいて、NDA実務を難なくこなせるレベルを目指すだけであれば、本著で必要十分です。

 というか、筆者はこれまでNDAに関して、我流と言いますか、独学の部分も多く、曖昧な知識もたくさんあったのですが、本著を読んで、曖昧だった部分が綺麗に整理されたような気がします。

 例えば、秘密情報に該当しない例外として、「正当な権限を有する第三者から、秘密保持義務を負うことなく適法に受領した情報」というのがあるんですが、従前までは、「秘密保持義務を負うことなく、正当に取得したんだから、それをNDAで制限するのはおかしいし、当然だよね」ぐらいにしか思っておらず、「正当な権限を有する第三者」とは何か、「適法に取得した」とは何か、という部分までは踏み込んで考えたこともなく、本著を読んで「あーなるほど」と感心させられました。

 その他、会社と従業員間の秘密保持契約のほか、営業秘密漏えいに関する裁判例について、不正競争防止法の条文に沿って解説が加えられており、「非公知性」「有用性」「秘密管理性」という、不正競争防止法上の営業秘密に該当するための重要3要件の解釈も併せて学ぶことができます。

 

 また、英訳が載っているのが地味に嬉しいです。英文契約に精通しているひとからすれば、なんてことはない表現集だと思いますが、海外企業とNDAを締結する機会も多く、個人的にこれは非常に助かりましたね。

 さらに、本著では、契約当事者の表記など、「それ、NDAだけに限った話じゃないやん!!」という部分にまで踏み込んでおり、これから契約実務を学ぼうとしている初学者の方にも親切な内容となっています。

 

 

総評

 全体を通して、初学者にも読みやすい丁寧な作りになっているという印象です。

 また、誠実協議条項、準拠法・紛争処理条項、完全合意条項など、NDAに限らず、契約実務全般に通じるような一般条項の解説まで丁寧に書かれているため、本著をとっかかりとして、契約実務全般に進んでいけるような内容になっており、是非初学者の方に読んで欲しいと思える書籍でした。