箱庭的ノスタルジー

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薬機法の広告規制について

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 薬事法が、平成25年に改正され、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「薬機法」又は「法」といいます。)という名称になって久しいですが、同法第66条ないし第68条に規定されている医薬品等の広告規制について、ネット上の情報を色々見ていますと、「正確ではないな…」と感じることが多いです。というか、たまに「間違っているよ」とさえ思います。

 そこで、今回は、薬機法上の広告規制について、少し整理させて頂きたいと思います。化粧品や健康食品等を取り扱うECサイトを運営されている方等にとって、参考になれば幸いです。

 

 

食品の広告規制

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 法第68条は、「何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。」と規定しており、無承認無許可医薬品等の広告を禁止しています。

 ここで規制の対象となっているのは、医薬品、医療機器、再生医療等製品の3つであり、「医薬部外品」と「化粧品」は規制の対象とはなっていません。要するに、薬用化粧品や一般化粧品などの商品の広告については、第68条の問題は生じず、第66条の問題となります。

 

 第68条の問題の典型例は、いわゆる「食品」の広告です。

 例えば、分かりやすい例で言いますと、ダイエット系食品において、「飲むだけで痩せられます」と広告表記したり、美容系食品において、「肌のシミが消えます」と広告表記したりするケースですね。ECサイトなどを運営されている方ならご存知かもしれませんが、これらの表現はNGとされています。

 一見すると、虚偽誇大広告を禁止した第66条の問題のようにも思えますが、これは第68条の問題です。「え?虚偽誇大広告として禁止されてるんじゃないの??」と疑問に思われた方のために、以下、詳述します。

 

 まずですね。薬機法上、「食品」や「健康食品」という概念がありません。要するに、「薬機法は、明文において食品の広告規制を定めたもの」ではないんです。食品衛生法4条1項にも、「食品」とは、「すべての飲食物をいう。但し、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年八月十日法律第百四十五号)に規定する医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品は、これを含まない。」と規定されており、経口摂取物のうち、薬機法における「医薬品」「医薬部外品」「再生医療等製品」を除外したものを「食品」と定義しています。

 

 「じゃあ、食品に関する広告は規制されていないの?」と疑問に感じるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。

 まず、「食品」に関する広告については、景品表示法のほか、健康増進法など、他の法令によっても規制されています。また、薬機法においても、医薬品的な要素を持つ食品は、無承認無許可医薬品と取り扱われ、そのような食品を広告した場合、無承認無許可医薬品を広告したものとして、法第68条違反となります(広告内容の問題というより、医薬品的な要素を持っていることが問題ということです)。

 

 厚労省薬務局通達(昭和46年6月1日薬発第476号「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」。いわゆる「46通知」)によると、「医薬品」と「食品」は、次の4つの観点から区別されています。

  1. 医薬品に利用される物の成分本質(原材料)からみた分類
  2. 医薬品的な効能効果からの分類
  3. 医薬品的な形状からの分類
  4. 医薬品的な用法用量からの分類

 

 ある特定の食品が、「医薬品」に該当するかどうかは、上記4つの観点から総合的に判断されるのですが、このうち、「医薬品的な効能効果」の部分が特に重要であるため、ここだけがクローズアップされ、「医薬品的な効能効果さえ表記しなければ大丈夫!」と勘違いしている人も多いですし、実際そのように説明しているブログさんも見かけます。

 

 ち、違いますよーーー!(;´・ω・)

 

 たとえ、医薬品的な効能効果を謳っていなかったとしても、上記通知の別添資料「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に挙げられている成分が含まれていたり、医薬品的な形状をしていたり、医薬品的な用法用量を表記したりすれば、「医薬品」と判断されるケースも勿論あります。

 

 以上をまとめますと、下記のとおりです。

  • 医薬部外品と化粧品の広告は、法第68条(無承認無許可医薬品等の広告)の問題ではなく、法第66条(虚偽誇大広告)の問題。
  • いわゆる「健康食品」の広告を出す場合、医薬品的な効能効果を示すことはNGとされているが、それは、法第66条の問題ではなく、法第68条の問題であって、しかも、それは「医薬品」と「食品」を区別する判断要素の1つに過ぎない。 

 

健康雑貨類の広告規制

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 こんな疑問を感じたことはありませんか?

 食品については、法第68条によって医薬品的な要素を表記することはできず、医薬部外品や化粧品については、法第66条によってさまざまな広告規制が規定されています(後述します)。ということは、「健康雑貨や美容器具のように、口から摂取するものではなく、肌に塗擦する商品でもなければ、薬機法の広告規制は及ばないんじゃね?」と。

 

 ち、違いますよーーー!(;´・ω・)

 

 例えば、サポーターのような健康用品において、「着用するだけで、自然と骨格が改善され、筋力もアップします」と広告表記した例で考えてみます。

 薬機法上、医療機器とは、「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるものをいう。」と規定されており(法第2条第4項)、上記商品の効能効果を読んでいると、「人の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具」に該当するように思えます。「機械器具」ってなんやねんっていう解釈上の問題もありますが、実務的に言うと、もろに該当しています。

 

 そのように、薬機法上の「医療機器」に該当するにもかかわらず、広告宣伝を行う際に、「健康雑貨」と標ぼうするだけで、薬機法の広告規制が及ばないとすることは、無承認無許可医療機器の広告を禁止した法の趣旨を没却させることになりかねず、妥当ではありません。

 要するに、「健康雑貨(または美容器具類)」と標ぼうして広告を行ったとしても、上記定義に照らして、「医療機器」に該当する場合には、法第68条に違反していることになります。十分にご注意ください。

※ なお、「医療機器」と「健康雑貨類」との区別基準については、「医薬品」と「食品」との区別のように、通達によって明確な区別基準が示されているわけではありません。

 

虚偽誇大広告の禁止(法第66条)

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 法第66条第1項は、「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。」と規定しており、医薬品等の虚偽誇大広告を禁止しています(同条第2項、第3項による規制もあるため注意)。

 そのため、「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」「再生医療等製品」の広告を行う際には、第66条に定める虚偽誇大広告に当たらないように注意を払う必要があります。

 

 ただ、どのような表現が「虚偽又は誇大」に当たるのか、この条文だけでは不明確であるため、厚労省通達(昭和55年10月9日薬発第1339号厚生省薬務局長通知「医薬品等適正広告基準について」及び「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項」)によって、解釈適用基準が明確化されています。基本的には、この通達内容を参考にしながら、法第66条に違反しているかどうかを判断することになります。

 今回の記事では、法令及び通達によって禁止されている広告表現のうち、特に勘違いされている(と思われる)項目を2つほどピックアップして説明したいと思います。

 

使用前後の比較写真

 ネット広告などを見ていると、平気で使用前後の比較写真を使用している例(肥満の人が、サプリを飲用した結果、数か月後にスリムになった様子を、比較写真でアピールするようなケース)を見かけますが、これアウトです。そのような比較写真を用いると、効能効果を保証している印象を消費者に与えるおそれがあるからです(効能効果の保証表現自体が禁止されています)。

 また、「写真はイメージです」「効果には個人差があります」「効果を保証するものではありません」といった注意書きを付しているケースもありますが、そのような注意書きを付しても、何の免責にもなっていません。

 さらに、「Before」「After」という表記をせず、使用前後かどうか分からなくしたとしても、写真を2枚並べて、比較している時点でダメです。

 

口コミ・体験談・レビュー

 実際に商品を使用した人のレビューを載せ、アピールしている例もよく見かけるんですが、このような体験談は、効能効果や安全性等について消費者に誤解を与えるおそれがあるため、原則として禁止されており、ただし例外として、①医薬品や化粧品等の広告で使用感を説明する場合や、②タレントが単に製品の説明や呈示を行う場合に限り、認められているに過ぎません。その場合でも、使用感が過度なものにならないように気を付ける必要があります。

※ 原則と例外を逆転させ、このようなレビューを載せることは認められていると勘違いしている方もいますが、原則として禁止であり、例外的に認められているに過ぎません。

 

 そのため、「この商品のおかげで本当に痩せることができました」「便秘が治りました」というように、体験談の中で効能効果を示すことはNGです。もはや使用感の説明の範囲を超え、使用したあとの結果まで言及しているからです(効能効果の保証表現に該当します)。

 また、体験談をいくつか紹介したあと、「個人の感想であり、効果を保証するものではありません」と注意書きを付したとしても、比較写真と同じく、免責とはなりません。

 

 もちろん、法令及び通達によって禁止されている広告表現はこれだけではありませんが、筆者が、色々と広告を見ていて、上記2つが圧倒的に違反の数としては多かったように思います。 

 

結びに

 薬機法上の広告規制について、如何だったでしょうか?(/・ω・)/

 薬機法の広告規制違反における罰則が決して軽くないことなどに鑑みますと、ECサイトの運営者さんや、実際に医薬品等を取り扱う事業者さんは、ネット上の曖昧な情報を鵜呑みにするのではなく、多少コンサル費用を支払ってでも、薬事コンサルを専門としている弁護士さんなどに相談するのがベターだと思います。