読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

とある法務部員の備忘録。

某IT企業に務めるお気楽法務部員が、法律、ゲーム、生活、その他諸々を書き綴っております。

MENU

【契約書】著作権等の帰属に関する確認条項について

法務

著作権等の帰属の基礎

f:id:pochi-kohchou:20160902132750j:plain

 取引の種類にもよりますが、例えば、システム開発委託契約のように、ある仕事の完成を目的とし、成果物を納品することを前提とした契約の場合、当該成果物に関する著作権や特許を受ける権利等が、委託者と受託者のどちらに帰属するのかという問題があります。

 この点、特許法第29条第1項は「産業上利用することができる発明をした者」に特許を受ける権利が帰属すると規定し、著作権法第17条第1項は、「著作者(著作物を創作する者)」に著作者人格権および著作権が帰属すると規定しています。

 そのため、委託者がいくら制作に係る対価を支払ったとしても、契約において著作権等の帰属を定めなかった場合、法律上は、原則として受託者(制作者)に著作権等が帰属するという帰結になります。

 

 ここまでは、特許法著作権法といった知的財産権法を勉強した人であれば、常識的な話であり、この種の契約では、必ず著作権等の帰属主体を定めておくのが、契約法務上もマストです。

 「それがどーした?」って感じですが、上記契約例では、委託者は、契約の目的物を使用して今後もビジネスを展開していくことを前提としているため、著作権等を自己に移転・帰属させるか、または受託者に帰属させつつも、著作物を利用できるように条件設定するのに対して、仕事の完成物が、取引遂行上、副次的な意味しか持たないという場合は、少し事情が異なります。

 

 例えば、A社が、自社の知名度アップのために、B社が発刊する雑誌Xに、自社に関する記事を載せてもらう契約を締結し、その過程において、B社が、インタビュー記事やA社の社内風景の写真等を制作したとします(いずれも著作物性を満たすことを前提とします。)。

 この契約の目的は、「自社に関する記事を、雑誌Xに掲載してもらうこと」であり、自社の知名度が上がれば、A社としては満足ですので、通常、これらの著作物を二次利用して、何かビジネスを行おうとすることはありません(自社ブログ等にも掲載したいというような場合はあるかもしれませんが)。

 要するに、契約の真の目的が別にあって、その目的を達する過程で生じた成果物については、受託者側に著作権等を帰属させても、問題が生じることは非常に稀と言えます。

 

著作権等が留保されるという確認条項の意義

 話を少し進めます。

 受託者(制作者)に著作権等を帰属・留保させる場合であっても、契約書において、「本契約の目的を遂行する過程で生じた成果物の著作権等は、制作者または権利者に帰属するものとし、本契約の締結および履行によって、相手方当事者に譲渡されるものではないことを相互に確認及び同意する。」といった条項を設けることがあります。というか、少なくとも私はそのような条項を入れます。

 

 人によっては、「当たり前のことを言ってるだけじゃないか」「ただの確認条項・確認規定だな」と思うかもしれません。実際、そのような条項を記載したところ、取引先より、「それは当然の話なのでは?何故そのような条項を入れるのですか?」と指摘されたこともあります。

 しかし、この条項は単なる確認規定ではありません。実務上、重大な意義を持っています(と、少なくとも私は考えています)。

 

当事者の認識の食い違い

f:id:pochi-kohchou:20160902175405j:plain

 先ほどの例で言いますと、契約書において、著作権等の帰属について何ら条件を定めないまま、B社が、インタビュー記事や社内風景写真などの著作物を創作し、雑誌Xに掲載したとします。この場合、著作権法に則って、当該著作物の著作権はB社に帰属することになります。

 しかし、A社は、自分たちは対価を支払っているのだから、B社が制作した社内風景写真等の著作権について、当然に自社に帰属しているという認識のもと、自社ブログにも写真を掲載したいと思い、B社に対して、一応確認の意味を込めて、その旨報告したところ、B社が、これを了承したとしましょう。

 この時点で、B社としては、「ブログに載せるぐらいだったら良いか」と、著作物の利用許諾をした認識でいますが、A社は、自分たちが権利を保有している著作物を自由に利用しているという認識でいます。つまり、認識の食い違いが生じているわけです。

 

 その後、A社が、当該写真を、会社パンフレットに掲載したり、改変したり、他媒体に掲載するなどの使用を繰り返していることをB社が発見し、著作物の利用差止めと、著作物の利用料の支払いを請求したところで、紛争に発展したとします。

 

当事者の意思表示の解釈

f:id:pochi-kohchou:20160902180449j:plain

  当初の契約条件では、著作権の帰属について当事者で何ら条件を定めなかったのですから、著作権法に基づいて権利の帰属を検討することになり、普通に考えれば、著作物の創作者であるB社に著作権が帰属することになります。

 著作権等が、制作者または権利者に帰属・留保するという規定を「確認規定」としか捉えていない人は、ここで思考がストップしています。しかし、著作権は、著作権者による任意の移転が可能であり(法第61条1項)、著作権の移転は、所有権その他の物権の移転と同様、当事者の意思表示のみによって効力を生じます。書面で合意する必要がありません。

 つまり、契約書に権利帰属を定めなかった場合、当事者の意思表示の解釈が極めて重要となるのです。A社としては、契約書に権利帰属に関する規定がないことを盾に、B社が自社ブログへの写真掲載利用を承諾したことなどを証拠として提出し、B社がA社に対して著作権を譲渡する意思表示を行ったなどと主張するかもしれません。

文部科学省も、「著作権の譲渡について書面により当事者の意思が明確に確認されないことにより、後日、その契約の解釈について問題となることが多い」と指摘しています(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05072901/003-4.htm)。

 

結論

 以上をまとめますと、契約書に権利帰属に関する条件を定めないなど、当事者の意思表示を不明確とすることは、無用な争いへ発展させるリスクを秘めているわけです。それゆえ、たとえ当たり前のことを言っていたとしても、「著作権を譲渡するものではないよ」と契約書に明記することが重要だと筆者は考えています。

 これは、当事者の意思表示のみで権利移転が可能な所有権など、他の権利譲渡の場面でも全く同じことが言えます。