とある法務部員の備忘録。

某IT企業に務めるお気楽法務部員が、法律、ゲーム、生活、その他諸々を書き綴っております。

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社内法律相談の現場から(1)

はじめに

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 はじめに、少しつまらない話をします。

 もし、「人を殺したら、どうなりますか?」と質問されたら何と答えるでしょうか?「殺人の罪に問われます」との回答が一瞬思い浮かびますが、この回答は必ずしも正確ではありませんし、十分ではありません。

 

 まず、殺人罪と言いうるためには、殺人の故意(殺意)をもって、殺人の実行行為により人を殺し、殺人行為と死亡結果との間に因果関係がなければなりません。要するに、主観的・客観的構成要件を満たす必要があるわけですね。

 また、犯罪とは、「構成要件に該当する違法で有責な行為」と定義されているところ、違法性や責任能力も必要となりますので、正当業務行為や正当防衛などの違法性阻却事由がなく、実行行為時に刑事責任能力を有していたことも求められます。

 そのため、「人を殺した」という事実だけでは、殺人罪が成立するとは断言できず、「殺人罪に問われる可能性がある」という回答にとどまるかと思います。

 

 それだけでなく、質問内容は「どうなりますか?」なので、殺人罪に問われる可能性(それに付随する刑罰の内容だけでなく)に言及するだけではアドバイスとして不十分であり、遺族による損害賠償請求の可能性や、会社を懲戒解雇となる可能性、マスコミの報道やネット上の書き込みなどによって本人又は家族の社会的名誉・信用が失墜する可能性など、人を殺したことによって被るであろう多くのペナルティに触れる必要があります。

 そのため、回答としましては、そういった可能性をピックアップすることになるかと思います。

 

 以上をまとめますと、「殺人罪に問われる可能性があるが、それはケースによる。また、それだけでなく、遺族から損害賠償を請求される可能性や、会社を懲戒解雇となる可能性などがある」といった回答が適当でしょうか。

 

すれ違いの原因・理由

 なんで、こんな話をしたかと言いますと、これはビジネスの現場における法律相談の場面でもよく見られる光景だからです(もちろん、「人を殺したら、どうなりますか?」なんていう相談はないですが)。

 営業担当者から法務担当者に法的な相談が寄せられたとき、大抵の場合、営業担当者は、白か黒かはっきりさせて欲しいと思っていることがほとんどです。しかし、法務担当者は、相談の意図・趣旨を完全に把握できず、又は情報が不足しているために、「〇〇という可能性がある」というように、曖昧な回答しかできないケースもあるわけです。

 それだけでなく、こちらの回答に対して、「なんでそうなるの?」「それは違うんじゃない?」と、反論を受けたり、時には法律論から脱線し、話が散らかってしまうこともあります。

 

 今回の記事では、社内法律相談の現場で起こっているこのようなすれ違いの原因や理由に言及したいと思います。

 

① ヒアリングが不足している。

 まず、単に法務担当者によるヒアリング不足という原因が考えられます。

 先ほどの質問の例で言いますと、法務担当者としては、「殺意を持って殺したのか、それとも誤って殺してしまったのか」「被害者が先に襲い掛かってきたといった事情はないか」「加害者の年齢はいくつか、また犯行当時、酩酊していたといった事情はないか」というように、当時の状況を詳細にヒアリングをする必要がありますが、これらのヒアリングが不足しているために、完全かつ正確な回答ができないケースも考えられます。

 

② 法的概念が伝達出来ていない。

 つぎに、法的概念が上手く伝達出来ていないという原因が考えられます。

 例えば、先ほどの質問例で言いますと、「殺人罪に問われる可能性がある」という回答に対し、一般的には、「人を殺しているのに、その可能性があるにとどまるのはおかしい」と考える人が多いのではないでしょうか。要するに、殺人罪が成立するための構成要件や違法性などの専門的な法律概念が伝わっておらず、法務担当者は正確に回答しているものの、その理論的根拠が理解されていないために、100%の納得が得られないという状況です。

 

③ 話の着地点が共有できていない。

 また、お互いの話の着地点が共有できていないという原因もあるでしょう。

 例えば、先ほどの質問例において、相談者が殺人罪の成否だけを聞きたいと考えている場合、それ以外に想定されるリスクにまで言及することは蛇足ですし、法務担当者が良かれと思って回答したとしても、相談者からすれば大きなお世話になります。

 

④ 業界ルールなどの法律以外の知識・商慣習に染まっている。

 さらに、相談者が業界の知識に長けており、法律とは別のところで、業界の暗黙のルールや、業界の裏側などを知っている場合、「法律と実務との乖離」を突っ込んでくることもあります。「法律ではそうなっているかもしれないが、この業界では誰もそんなルールを守っていない」というように。

 

⑤ 社内での役職や経験に基づくクロスカウンター

 また、法務担当者よりも立場的に上にある営業部門の課長や部長クラスの人(あるいは、社歴の長いベテラン社員)によく見られる傾向として、これまで法務や外部弁護士に相談してきた経験があるために、こちらの回答に対して、「以前、似たような相談をしたとき、〇〇弁護士は別のことを言っていた」というように、これまで蓄積されてきた過去の相談事例を持ち出してくるケースや、自分の予期しない(望んでいない)回答が返ってきたときに、それを是とせず、反論をしてくるケースもあります。

 過去の相談事例について、それが有益な情報であれば良いですが、今回の相談とは事情が異なっていることが多いですし、反論についても、話が脱線してしまうことがほとんどです。

 

小括

 社内法律相談の現場で生じているすれ違いの原因は他にもあると思いますが、私が思いつく原因を挙げさせて頂きました。次回は、このようなすれ違いについて、法務担当者が留意すべき点などを書いてみたいと思います。