とある法務部員の備忘録。

某IT企業に務めるお気楽法務部員が、法律、ゲーム、生活、その他諸々を書き綴っております。

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社内法律相談の現場から(2)

法律相談への向き合い方

 今回は、前回の記事↓ の続きです。

 

 前回のすれ違いを踏まえ、法務担当者として、どのように法律相談と向き合っていけばよいのか。私なりに試行錯誤し、以下の点に留意するようにしています。

 

① 過不足のない正確な情報を収集する。

 ここでは、「過不足のない」というのがミソです。

 前回、「人を殺したらどうなりますか?」という質問・相談を例にとりましたが、殺人罪の成否を検討するにあたって、これだけでは情報が不足しています。そのため、詳細な事情をヒアリングする必要がありますが、「加害者の親の職業」や「凶器である包丁が製造された年月日」を聞いても仕方ありません。殺人罪の成否と直接の関係がないからです。

 また、その情報が「憶測や根拠のない事実に依拠するものではなく、客観的根拠に即した正確な情報」である必要があります。出来る限り相談者による主観を排斥し、客観的根拠に基づく事実を確認しなければなりませんが、「あなたの意見は聞いていない」などと冷たく突き放すのではなく、その人の意見や見解の裏付けとなる客観的根拠が存在するのか、上手く話を引き出していくのが法務担当者の腕の見せ所でしょう。

 

② 法的概念を平易な表現に置き換える。

 法的概念をそのまま伝えても、まず通じません。「窃盗罪の成立のためには、不法領得の意思が必要です」なんて言っても、「いや、なに言っているのかさっぱり分からん」と返答されるのがオチです。そのため、難解な法的概念を平易な表現に置き換えるなどして、こちらが伝えたいことを理解しやすくする努力が必要となります。

 例えば、法的概念として「期限の利益」というものがありますが、この言葉を聞いて何を指しているのか明確にイメージできる人は少ないでしょう。そこで、「期限の利益」とは言わずに「猶予期間」と言い換え、「期限の利益を喪失する」とは言わずに「猶予期間がなくなる」と言い換えるといった具合に。

 

 また、中にはどうしても上手く伝えられない法的概念や法理論もあります。例えば、「著作権著作者人格権の違い」などは、本当に理解してもらおうと思えば、財産権と人格権の相違から説明しなければなりませんし、なぜ人格権は一身専属的であるのかといった点も説明を要します。

 しかし、法律相談の場では、このような難解な法律論には立ち入りません。著作者人格権の不行使条項などについて質問されたら(まず質問されることはありませんが)、「著作権の中には、著作者人格権という他人に譲渡できない権利があり、これを行使しないという特約です」程度の説明にとどめます。間違っても「支分権」などの専門用語は使いません。混乱の源になるからです。

 

③ 話を区切って小括を示す。

 法務担当者の頭の中で組み立てられたロジックを、いきなり全て伝えると、相談者は混乱に陥る可能性が高いです。また、法律相談ではよくあることですが、相談者が事実を間違って認識していたり、関係のない話に飛び火したりして、あちこち話が散らかってしまうことがあります。

 そこで、私は、①事実の整理(事実確認)、②問題点・争点(問題提起)、③法律の規定や過去の裁判例(規範)、④事案に即した結論(当てはめ)という区分で、いったん話を区切るようにしています。「今の話をまとめますと、つまり・・・・ということですね?」「今の話には、〇〇という問題点が含まれています。〇〇とは・・・」「これには法律の定めがあり、△△という法律には・・・・・と規定されています」というように、営業担当者との間で一段一段階段を登っていくイメージです。

 間違っても、自分だけが先に階段を登り切り、階段の頂上から「ゴールはここだから早く来い」というように、上から目線で物を言うことはしません。

 

④ 非矛盾・両立性の話へと持ち込む(長いです)。

 仮に、相談者が商慣習に精通しており、法律とは関係のない業界ルールを持ち出してきたり、過去に別の弁護士や専門家に相談したときの話などを持ち出してきたり、あるいは自分なりの独自の見解で反論された場合、それを頭ごなしに否定するのではなく、相手の主張と矛盾しない両立しうる話へと持ち込みます。要件事実論的に言うのであれば、否認ではなく抗弁です。

 

 例えば、「本人の意に反し、交際関係を聞き出すことはセクハラに当たる可能性があります。」というこちらの意見に対し、「コミュニケーションを円滑に取るためには、彼氏・彼女の話をすることもあるし、本人が嫌がっているかどうかなんて傍目には分からない。それを聞き出すことがセクハラに当たると言うのであれば、もはやコミュニケーションを取るなと言っているに等しい。」と反論されたとしましょう。

 この反論には致命的な論理矛盾がありますが(交際関係を聞き出すことだけがコミュニケーションではないため)、「あれもダメ、これもダメと言われれば、もはや何を話せば良いのか分からず、コミュニケーションが成立しない」という言い分であれば、確かに一理あります。ルールが厳格過ぎるという意味で。

 しかし、「本人の意に反して、交際関係を聞き出すこと」を肯定することは出来ません。そこで、「確かに、交際関係を聞くことは日常会話でもあり得る話ですので、そのような話がダメだとなれば、コミュニケーションを阻害することにもなりかねません。その点ごもっともです。しかし、セクハラとして禁止されているのは『本人の意に反した性的言動』ですので、そのような交際関係の話が全てセクハラに該当するわけではありません。交際関係を聞く前に、『彼氏・彼女の話を聞いてもいい?』と一声かけるなどして、相手に配慮した会話を心がければ、コミュニケーションを阻害することにもならず、セクハラも回避することができるのではないでしょうか」などと説明します。

 

 上記回答は、相手の意見を否定せず、且つ、矛盾しないものとなっています。

 まず、相談者による反論は、「本人の意に反した性的言動は、セクハラである」という大前提に対し、「交際関係を聞き出すことは、性的言動である」という小前提だけを根拠に、「交際関係を聞き出すことは、セクハラである」という結論を導く三段論法となっています。しかし、「交際関係を聞き出すことは、本人の意に反した性的言動である」という小前提でなければ、「交際関係を聞き出すことは、セクハラである」という結論は導けません。ここに論理の飛躍があります。

 しかし、「交際関係を聞き出すこと」は、常に「本人の意に反する」わけではありません。そのことから、「交際関係を聞き出すこと」は、セクハラに当たることもあれば、セクハラに当たらないこともあります。「本人の意」という予見できない要素に左右されるからです。

 

 そこで、回答では、「本人の意思を確認したうえで交際関係を聞き出すことは、本人の意に反した性的言動ではない」という小前提を付け加えています。これにより、「本人の意思を確認したうえで交際関係を聞き出すことは、セクハラではない」という結論が導けます。そして、この結論は、相談者の反論にある「交際関係を聞き出すことは、セクハラである」という結論と両立しうるものであり、その結論を前提とした「交際関係を聞き出すことがセクハラであるならば、コミュニケーションは成立しない」という意見も否定していません。

 このように、相手の意見を否定せず、相互に矛盾しない両立しうる話をすることによって、「そういう見方もあるのか」と、理解を得られやすくなります。

 

まとめ

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 長々と能書きを垂れてきましたが、社内に限らず、法律相談の手法に正解なんてないと思います。法律相談の対応はケースバイケースですし、予期しない相談が寄せられることもあります。

 結局は、以上のような基本的なスタンスを確立しつつ、これまで蓄積してきた経験や知識を活かして、急場の相談にも対応できる能力を磨いていくことにより、現場からの信頼を勝ち得ていくしかないのではないかと思います。