MENU

書籍レビュー(5)「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル」

 一般ユーザー向けの内容

サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第2版

サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第2版

 

 今回ご紹介する書籍は、ネット中傷問題に精通している弁護士・清水氏著の「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル」です。

 

 本著は、企業法務担当者や弁護士などの実務家向けというより、ネット中傷問題や法律知識に疎い一般ユーザーを対象とした書籍であり(著者自ら、冒頭にて一般ユーザー向けであると述べられています)、「です・ます」調の柔らかな文体で書かれているほか、名誉権やプライバシー権などの基本的な法的概念を分かりやすく解説するなど、目線を落とした内容となっています。

 そのため、ネット炎上問題や企業の対応方法等、この問題をもっと学術的・専門的に深掘りしていきたいとお考えの方は、本著を足掛かりとして、他の書籍に目を通していく必要があると思われます。

 

 とはいえ、第2章から第4章にかけて、ネット上に書き込まれたネガティブインフォメーションの削除依頼の方法や、書き込んだ者の特定、開示請求の方法等を詳細に記述している点は、管理部門に属する法務やIR・広報担当者からすると大変有難い内容。

 第6章には、有名サイトごとの削除依頼方法が事細かに説明されており、ネット上の中傷・批判記事に対する初動対応に関しては、本著はまさに「マニュアル」として機能すると考えられます。

 

大悪のために小悪を許容できるか…?

 ここから先は別の視点から。

 ネット中傷問題、ネット炎上問題を考える際、私がいつも直面するのは、一般市民による意見表明、批判、告発の場としてのメディアの役割の曖昧さや未完成さの問題です。

 

 本著でも、TwitterなどのSNSにおけるネガティブインフォメーションの拡散の恐ろしさを再三にわたって指摘されていますが、TwitterFacebookは、本来、近しい友人同士や閉じられたコミュニティ内のコミュニケーションツールとしての役割を担っている(いた)はずであり、ニュースサイトのように他の報道メディアとは一線を画します。

 詳言するに、TwitterFacebookなどのSNSは、私人間におけるコミュニケーションツールとしての役割が主であって、国民の知る権利に資するために、ある特定の時事を世間に広める報道ツールではありません。結果としてそのような役割を果たすこともあるかもしれませんが、それは副次的なものであるはずです。

 

 しかし、世間では、そのようなメディアの本来の役割論など目もくれず、企業の不祥事等を世間に知らしめるSNSの活躍をむしろ歓迎しているように思います。また、SNSに限らず、「転職会議」など、企業の内情を告発するメディアも広く一般市民に受け入れられ、ブラック企業撲滅に一役を買っている当該サイトは有益なツールであると認識されているように思います。

 そして、現にこれらのメディアは、他の報道メディアが持ちえない独自の情報力と拡散力を誇り、企業不祥事やブラック企業の内情といった「大悪」を滅するために、社会には必要不可欠なツールとして受け入れられています。

 

 むろん、私もそのような役割を果たしていることについて一部肯定的ではありますが、本著でも取り上げられているように、個人への人格攻撃や事実の捏造、名誉毀損などの問題が付きまといます。それは、報道を主目的とする他のメディアでも起こり得るものですが、他の報道メディアでは責任主体が明確であるのに対し、匿名の一般ユーザーによって書き込まれ、それが拡散された場合、その書き込みの責任主体は、「どこの誰か分からない身元不詳の人物」です。

 翻って、もし一般ユーザーによる書き込み内容に問題があった場合、各サイトの管理運営者が責任をとるのかと言うと、決してそうではなく、プロバイダー責任制限法の下、各サイトの管理運営者は免責される余地があります。

 要するに、このような全体像を概観したとき、最終的に誰が責任をとるのか分からないという点において、「一般市民による意見表明、批判、告発の場としてのメディアの役割の曖昧さや未完成さ」に直面するのです。

 

 そして、この点は世間ではさほど問題視されていません。それは、「大悪」を滅するためには、多少の「小悪」には目をつぶる必要があるという認識が根底にあるからではないでしょうか。これらのメディアにおいて、問題のある書き込みがあったとしても(現にそれによって被害を被った個人・企業が存在したとしても)、これらの「小悪」はいわば必要悪であり、両者はトレードオフの関係にある、と。

 ただ、私はこの根底的認識に反対であり、両者は決してトレードオフの関係に立つわけではありません。大悪のために小悪を許容できるかという議論ではなく、両者を完全に切り離し、全く異なる次元で議論がなされるべきでしょう。

 

 この点について、私は、責任の所在が曖昧な状況下でなされる一般市民による書き込みについて、完全な表現の自由(思想の自由市場)を保障するわけにはいかず、情報の拡散力や風評被害の甚大さに鑑み、一定の規制を及ぼすべきであると考えています。

 当該私見について、反論の余地の存することは承知しておりますが、インターネット上の表現・言論活動について、これまでの媒体・メディアとは全く異なる視点が必要になってきていることは自明なのではないでしょうか。

 

むすびに

 なんか書籍のレビューから離れちゃいましたが、、ネット中傷・ネット炎上問題は奥の深い分野であり、法改正等も含め、動向を見守っていきたいと思います。