箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

企画競争入札での成功経験から学ぶ3つの企画提案術。

企画競争入札_ノウハウ

 私は、前職において、企画競争入札に10件ほどエントリーし、計3件ほど企画採用(落札)に至ったことがあるんですが、その経験を通して培ったノウハウをもとに、企画提案のコツ(らしきもの)を3つほどご紹介します。もしかしたら、営業提案などにも応用できるかもしれません。

 なお、企画提案型・公募型プロポーザル入札案件を専門にして、コンサルをしている企業もありますし、専門の書籍も世に出回っていますが、私は、そのような外部コンサルに企画書の添削指導を受けたこともなく、専門書を読んだこともありません。そのため、ここに書いてあることは完全なる自論です。

 

 

企画競争入札で案件受託に至るまで。

 まず、私の本職は法務であり、日常的に企画書を作っているわけではなく、企画競争入札に限らず、企画提案自体がド素人でした。ただ、社内研修用にパワポなどを使ってスライド資料を作ることがあり、私の資料を目にした他部署の人が、「まさぽちさん、結構資料作りのセンスありますね~。企画競争入札用に企画書作ってみません?」と声をかけてもらったのが、最初のきっかけでした。

 

 んで、とりあえず、本業に支障がでない範囲で企画書を作ってみたんですが(プレゼンもしました)、最初の企画競争入札でこれが採用されちゃったんです。企画競争入札未経験者が、いきなり企画採用となることは凄いことだったらしく、企画書の作成を頼まれることが増えていきました。今から思えば、最初の企画書が不採用だったなら、その一度きりで終わっていたでしょうね。

 

 ただですね。私の本業じゃないですし、そこに100%のリソースは割けません。そのため、どうして採用されたのか、どのような点が評価されたのかと言った点を分析することもないまま、その後も機械的に企画書を作るだけでした。敢えて気にしていた点といえば、「どうやったら見栄えがよくなるか」といった体裁面ぐらいですかね。

 案の定、その後は全く結果が出ず、不採用の連続。最初の企画採用は完全なるビギナーズラックだったと気がつきました。とはいえ、「自分の本業じゃない」という理由から、そこまで気にすることもなかったんですけどね。

 

 私の意識が変わったのは、5~6回目の企画競争入札のとき。このプロポーザルでは、企画提案内容に点数がつけられ、公表されるものでした。いつものように企画書を作り、プレゼンをして、いざ結果を見てみると、企画採用となった1位の会社さんと、100点近い差をつけられていたんです。確か、300点満点で、その会社さんが250点、うちの会社が150点みたいな感じだったと思います。

 それに加えて、審査員のコメントがつけられており、酷評の嵐。「プレゼンで、~と説明していたが、その強みを持っているなら、提案書の中に詳細を記載すべき」「こちらの意図が伝わっていないと感じた」など。これにはさすがにショックを受けましたね。

 

 そこから、なぜ不採用となったのかを真剣に考えるようになり、自分なりに試行錯誤をしながら、企画提案方法を変えていった結果、その後参加した企画競争入札において、立て続けに2件採用されるに至りました(キリッ)。

 

私が意識して取り組んだ3つのこと。

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 以下、自分が意識して取り組んだこと、試行錯誤の末に辿り着いた企画提案方法を順番に書いてみます。かなり長々と書いていますがご容赦ください。

 

① 相手が抱えている課題に理解を示し、自分の言葉で言い換える。

 企画競争入札では、行政は何かしらの課題を抱えており、民間の力を借りてその課題を解決したいと考えています。言うなれば、相談者とアドバイザーの関係です。

 まず、自分の立場に置き換えて考えてみてください。あなたが借金を抱えており、返済する当てもなく、弁護士に相談したとします。その際、あなたの事情を一通り聞くだけ聞いて、解決策だけを提示する弁護士をどう思うでしょうか?私であれば、やっつけ仕事のように感じ、この人と信頼関係を構築することは難しいと感じます。おそらく、別の弁護士に相談し直すでしょう。

 この理屈は、企画競争入札においても同様です。お役所の人間はロボットではなく、心が通った人間だからです。そして、行政が抱えている課題に対して理解・共感を示さない事業者は、「事業趣旨の理解が不十分である」との評価を受けがちです。実際、公募型プロポーザル案件では、評価対象として、「事業趣旨に対する理解度」という、評価項目が設定されていることがあります。

 そのため、私は、企画競争入札のノウハウを社内に共有するにあたって、「まず、行政課題を正しく把握し、その課題に対し理解・共感を示すことが重要である。」と説いていました。

 

 また、理解・共感の示し方にもコツが必要です。

 公募型プロポーザル案件では、概要説明書のようなものが公示され、そこにつらつらと事業趣旨等が記載されているのですが、ここに書かれていることをオウム返しのように繰り返し述べても、理解を示したことにはなりません。

 例えば、「最近、寝不足でなかなか疲れが取れないんだよね」という相談に対し、「分かる。寝不足だとしんどいよね」と、相手が述べたことを繰り返すだけでは、理解・共感を支える理由が欠落しているために、理解・共感のアピールとしては弱いのです。そこで、私は、自分の言葉で言い換えることを意識してやっていました。相手の言ったことに少し自分の言葉を付け足す…と言ってもいいかもしれません。

 

 例えるのが難しいのですが、「若者の後継者が育たず、A市の伝統工芸品Bの技術承継が進んでいない。」という行政課題が示されたとしますと、例えば、「厳しい規律と礼儀を重んじる伝統工芸の世界では、厳しい上下関係や、キツい・汚い・危険な仕事を嫌う傾向にある若年層の人材が定着しないがために、次世代への技術承継が進んでいないことに加えて、長年にわたり伝統工芸に携わってきた職人たちの高齢化に伴い、伝統工芸品Bの存続自体が危ぶまれている。」などと言い換えます。

 この回答では、「若者の後継者が育っていない」という問題について、その背景にある若者の労働意識に言及することで、「なぜ伝統工芸の世界に若者が定着しないのか」という隠された問いにも回答する形となっており、さらに、「伝統工芸Bの技術承継が進んでいない」という課題から一歩進めて、「職人たちの高齢化」を原因として、「伝統工芸品Bの存続自体が危ぶまれている」という問題の本質にまで立ち入ることにより、理解・共感の根拠を示しています。

 

 別に、自分の考えでもいいんです。このように、相手の言ったことに対して、自分の考えを付加し、あるいは別の言葉に置き換えて表現することで、理解度・共感度に深みを持たせることができます。その結果、相手から、「そうそう!こちらが言いたいことをよく分かってくれているじゃないか!」という逆共感を得られやすくなるんじゃないかと思います。

 実際、この部分を意識して取り組むことで、目に見えて、審査員の評価は変わったように思います。

 

② アピールすべきは会社実績と横のつながり

 私は、当初、自社のサービスの特徴や強みなどに多くの紙幅を割いていました。しかし、このアピール方法が有効と言えるのは、おそらく業界内で最上位に位置する企業だけでしょう。それ以外の会社(市場シェア率が低いもしくは普通、扱っているサービスがニッチなど)の場合、どれだけ自社サービスをアピールしても、「他の会社と大差ない」と受け止められると思います。どこの会社も自分たちの商品やサービスを良く見せようとするに決まっているからです。

 

 そうではなく、企画競争入札においてアピールすべきは、まずもって実績です。転職活動に例えるのであれば、「TOEICで満点取りました」などと英語力をアピールしたところで、企業からすれば、「じゃあ、具体的に英語力を生かしてどんな仕事をしてきたの?」「どんな実績があるの?」という部分を聞くでしょう。営業提案でも同じです。お客さんに対し、自社の商品やサービスの良さをアピールしたところで、「じゃあ、他の導入事例を教えて」となるはずです。結局一番知りたいのはそこだからです。

 自社サービスの概要を簡潔に説明し、具体的な実績を詳細に記載する。これが一番相手に刺さるアピール方法だと思います。ちなみに、とある役所に勤めている友人に聞いた話ですが、企画競争入札は、「ほぼ実績で決まると思う。」と話していました。「保守的な考え方が強い役所では、実績のない会社に案件を任せるような冒険はしない」というのがその理由です。

 

 もう一つ、アピール材料を挙げるとすれば、横のつながり(人脈)です。

 会社ホームページでも、大口のナショナルクライアントと取引実績があれば、その旨を記載していることが多いですよね。それは、「そのような有名企業にも自社の商品やサービスが受け入れられている」というアピールに他なりません。あるいは、与信審査が厳しいであろう、大手のナショクラと取引があるということは、ある程度財務基盤もしっかりしているという安心感を与えることにもなります。

 また、企業単体で出来ることなんて、たかが知れています。そのことは行政もよく分かっていて、プレゼンでの質疑応答の際にも、「〇〇という分野について、外部委託は可能ですか?(そういう横のつながりがありますか?)」という質問はよく受けたように思います。そんなときに、横のつながりをアピールすることが出来れば、「業務範囲の幅が広い」という安心感にも繋がります。

 

③ 相手の心に刺さるキラーワード・キラーエピソードを用意しておく。

 最後3つ目は、企画書というより、プレゼン用の話です。

 プレゼンでは、持ち時間が決められていて(30分未満であることが多かったように思います)、その時間内にプレゼンを完結させなければなりません。そのため、プレゼンに慣れていないうちは、それなりにプレゼンの練習にも時間を割く必要があります。

 んで、プレゼン後に、質疑応答の時間があるのですが、審査員によっては、結構鋭い質問をしてきます。基本的には粗探しなので、弱みなどをバンバン突いてきますし、回答に窮することもしばしばあります。

 

 私の場合、質疑応答に備え、案件ごとにキラーワード・キラーエピソードを必ず一つ用意していました。これを練るのは結構大変なんですが、これが相手に刺さったときは、気持ちいいったらありゃしません。

 具体的には、ある程度質問を予測しておき、その質問に対して、「例えば、ソフトバンク孫社長が、アップル社のスティーブ・ジョブズ氏に直接会いに行ったという有名な話がありますよね?そのとき、孫社長は…」というように、エピソード形式で回答するのです。なぜそのような形式にするのかと言いますと、エピソード形式での回答は、こちらの回答時間が長くなり、相手はずっとそれを聞くという図式になります。つまり、「ずっと俺のターン」ってやつです。このように、質疑応答では、いかにその場の主導権を握るか、という点を意識すると良いと思います。

 そのうえで、ただ長々とエピソードを語るだけではダメです。「こいつ、さっきから何言ってんだ?」と、その場が白けてしまい、逆効果になります。そうならないように、必ず話の結論を用意しておき、且つ、その結論をキラーワードで締め括るように意識します。これが刺さったときは、大抵の場合、質問が途切れ、そのまま終了します。

(立て続けに2件採用されたときも、そんな質疑応答だったように記憶しています)

 

おわりに

 以上、企画提案術いかがだったでしょうか?(;^_^A

 私は、企画提案のプロではないですし、本業は法務です。ただ、法務という仕事をするうえで、契約交渉などのスキルも求められるのですが、企画競争入札を経験することにより、企画提案の考え方が身についたと言いますか、自分の基礎土台づくりに非常に役立ったと思います。企画競争入札を経験できて本当に良かったと思いますね。

 もう、企画提案のお仕事をすることは当分ないと思いますが、また機会があれば、企画書を作って、プレゼンなどをやってみたいなぁと思います。

 ではでは、本日はこのへんで!