箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

黒髪を強要する校則には教育目的も合理性もない。

黒髪にしなくていい

 

 久しぶりに怒りを覚えるニュースを読みました。

www.sankei.com

 こちら。大阪の府立高校が、地毛が茶色である女子生徒に対し、校則を理由に黒染めを強要。頭皮が荒れるなどの健康被害が生じているにもかかわらず、「黒色にするのがルール」と、何度も指導を行い、文化祭や修学旅行といった学校行事だけでなく、授業への出席も禁止され、その女子生徒はその後不登校に。精神的損害を被ったとして、府を相手に慰謝料などを求める訴訟を提起したという事件です。

 

 これ、私にとって他人事には思えませんでした。何故なら、私も地毛が茶色く、同じように嫌な思いをしたことがあるからです。

 

小学校時代の思い出

 拙い話になります。私は幼少の頃から地毛が茶色というか、赤みがかった色でした。母方の血筋の影響で、よく「外国人みたい」と言われていました。

 小学校の頃、それが原因で、先生から呼び出しを喰らうこともしばしば。担任の先生が変わる度に、母親がわざわざ学校まで行って説明するのです。「これ地毛ですから」と。普通だったら「あ、そうなんですね」と納得してくれますが、中には疑ってくる先生もいて、中学受験を控えている私に対し、「おーい。茶髪やと内申に響くぞー」「そんな髪で入学させてくれる私立中学なんてないぞー」と、チクチクと嫌味を言ってくるのです。

 それが大問題に発展して、あるとき校長先生が、「他の生徒にも悪影響を与えるので、黒染めして頂けませんか?」と、うちの両親に打診。これを聞いた両親が「悪影響ってなんやねん!!髪の色を個性と認めへんのか!!!」と大激怒する一幕もありました。親は偉大です。

 

 私はその後、私立の中学に進んだのですが、この女子生徒と同じく、両親が入学前に学校側に髪の色のことを説明。答えは「全く問題ありません」でした。髪を黒くする必要はないし、そのまま登校して頂いて構わない、と。少人数ながら海外からの留学生もいて、多様性を尊重する学校風土だったんですね。年齢を重ねるとともに、赤みが取れて徐々に黒髪に近づいていったということもありますが、髪の色のことでイジメを受けるということもなく、教師から注意を受けたこともありません。

 

判例による規範と本件への当てはめ

 私の話はこのぐらいで。。

 翻って、校則の違法性が争われた有名な判例として、丸刈り校則事件(熊本地判昭和60年11月13日)というものがあります。この事件は、町立中学校の校長が校則において、男子生徒の髪形を「丸刈、長髪禁止」と定めたことが、校長に与えられた裁量権を逸脱するものとして違法ではないかと争われた事件です(その他、憲法14条違反などの争点もありますが割愛します)。

 

 この点について、熊本地裁は、

中学校長は、教育の実現のため、生徒を規律する校則を定める包括的な権能を有するが、‍教育は人格の完成をめざす(教育基本法第一条)ものであるから、右校則の中には、教科‍の学習に関するものだけでなく、生徒の服装等いわば生徒のしつけに関するものも含まれ‍る。もつとも、中学校長の有する右権能は無制限なものではありえず、中学校における教‍育に関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものであ‍るが、具体的に生徒の服装等にいかなる程度、方法の規制を加えることが適切であるかは、‍それが教育上の措置に関するものであるだけに、必ずしも画一的に決することはできず、‍実際に教育を担当する者、最終的には中学校長の専門的、技術的な判断に委ねられるべき‍ものである

従つて、生徒の服装等について規律する校則が中学校における教育に関連し‍て定められたもの、すなわち、教育を目的として定められたものである場合には、その内‍容が著しく不合理でない限り、右校則は違法とはならないというべきである。

(下線は筆者によるもの)

  という規範を示しています。この判例の射程範囲などの議論もあるかもしれませんが、本記事では、この規範に基づいて検討してみます。

 

敢えて言おう、教育目的など詭弁であると。

 上記判例は、校長には生徒を規律する校則を定める包括的権能があるとしつつも、それは無制限のものではなく、「教育に関連するもの」であることが必要としています。

 こういう目的手段審査基準を用いると、規制目的について合理性が認められることがほとんどなんですが、上記判例も、あっさりと教育目的で制定されたものであることを認定しています。しかし、事実認定の内容は実にお粗末なものです。

本件校則は、生徒の生活指導の一つとして、生徒の非行化を防止すること、‍中学生らしさを保たせ周囲の人々との人間関係を円滑にすること、質実剛健の気風を養う‍こと、清潔さを保たせること、スポーツをする上での便宜をはかること等の目的の他、髪‍の手入れに時間をかけ遅刻する、授業中に櫛を使い授業に集中しなくなる、帽子をかぶら‍なくなる、自転車通学に必要なヘルメツトを着用しなくなる、あるいは、整髪料等の使用‍によつて教室内に異臭が漂うようになるといつた弊害を除却することを目的として制定さ‍れたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、被告校長は、‍本件校則を教育目的で制定したものと認めうる。

 

 髪型を丸刈りにすると、「生徒の非行化」を防止できるのか。なるほど。では、全国の中学生に「丸刈り」を広めて、日本から少年犯罪や非行問題を根絶してください。校長、お願いします。あなたしかできません。

 「中学生らしさ」。へぇー。昔、NHKで見た「中学生日記」には、丸刈りじゃない男子生徒が何人もいたけど、あの子たちは中学生らしくない、と。公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行う義務を負うNHKが、「中学生らしくない男子生徒」を、あたかも世間の中学生の代表的な存在であるかのように、お茶の間に放映するなんて大問題ですよ。当然、NHKには抗議したんですよね?

 丸刈りにすると、周囲の人々との人間関係を円滑にできる!?マジか!もっと早く知りたかったー!校則に定めるだけじゃなくて、書籍化してください。絶対読むんで!

 

 …これぐらいにしておきます。どうですか?馬鹿げてませんか?こんなことを「教育目的」とか、真顔で言ってるんですよ。

 

 本件において、校長がどのような「教育目的」で、黒髪ルールを定めたのか、その理由は知りませんが、どうせ「非行化の防止」とか、「校内の風紀維持」とか、「周囲に与える悪影響の抑止」とか、もっともらしい理由を挙げて、「これは教育目的だ」と主張するんでしょうけど、私は、自分の生まれ持った髪の色を変えさせることが教育だとは絶対に認めません。もし、それを教育だと言うなら、あなたを教育者とは認めません

 

合理性なんて無いからさ。

 上記判例は、生徒の服装等にいかなる規制を加えることが適切であるかは、画一的に決することはできず、最終的に中学校長の専門的、技術的な判断に委ねられるとしつつ、教育目的で定められた場合には、その内容が著しく不合理でない限り、校則は違法とはならないとして、校長にかなり広範な裁量権を認めています。

 

 著しく不合理かどうかを判断するにあたって、上記判例は、当時の熊本市内において、長髪を許可する中学校が増加していた点などに鑑み、「本件校則の合理性については疑いを差し挾む余地のあることは否定できない。」としつつも、丸刈りという髪型は今なお男子児童生徒の髪形の一つとして‍社会的に承認され、必ずしも特異な髪形‍とは言えないなどと述べ、著しく不合理とはいえないと結論付けました。

 ただ、上記判例は、ある重要な事情を考慮しています。それが次のものです。

本件校則には、本件校則に従わない場合の措置については何らの定めもなく、かつ、被告‍校長らは本件校則の運用にあたり、身体的欠陥等があつて長髪を許可する必要があると認‍められる者に対してはこれを許可し、それ以外の者が違反した場合は、校則を守るよう繰‍り返し指導し、あくまでも指導に応じない場合は懲戒処分として訓告の措置をとることと‍しており、たとえ指導に従わなかつたとしてもバリカン等で強制的に丸刈にしてしまうと‍か、内申書の記載や学級委員の任命留保あるいはクラブ活動参加の制限といつた措置を予‍定していないこと…が認められ、…又、弁論の全趣旨によれば‍現に唯一人の校則違反者である原告に対しても処分はもとより直接の指導すら行われて‍いないことが認められる。

(下線は筆者によるもの)

 

 要するに、校則において「丸刈り」を禁止しているけれども、それを破ったからといって、不利益となるようなペナルティを課していないし、身体的欠陥等があって長髪を許可する必要があると認められる生徒に対してはこれを許可していたという、校則の具体的な運用状況を勘案しているのです。

 本件では、女子生徒に対して執拗な指導を行っているほか、授業への出席禁止や、文化祭・修学旅行への参加を認めないなどの具体的な不利益を課し、頭皮や髪が荒れるなどの健康被害が生じているにもかかわらず、例外的に許容されることもありませんでした。また、指導の途中で過呼吸になり、救急車で運ばれるという事態も生じています。もし、上記判例の挙げた規範及び考慮要素を敷衍するとすれば、本件は、合理性を欠く事案と言えるのではないでしょうか。

 

 また、「著しく」という点についても、後天的に髪を染めた生徒に対する指導であればともかく、女子生徒の髪の色が先天的に茶色であったことなどを考えると、学校側の対応はあまりに厳格に過ぎ、私は、「著しく不合理」と認定されるケースではないかと考えています。

 

さいごに

 正直、今の時代に、生まれ持った髪の色を変えさせてまで、黒髪でなければならないと校則に定めている学校があるなんて、信じられませんでした。しかも、金髪の外国人留学生でも規則で黒染めさせるらしいじゃないですか。

 

 そもそも、なんで黒髪でなければならないのか、これを説明できるんですかね。あと、髪の色について定めているのであれば、肌の色はどうなのか。昔、顔グロとかヤマンバギャルとか流行りましたけど、もし、肌を黒く焼いたり、過度のメイクをすることもダメなのであれば、黒人の留学生に対して、まさか「ペールオレンジに塗れ」とか言うんじゃないでしょうね?