最近、ジャンプの発行部数が100万部を切ってしまったらしく、この事実を聞いて、僕の中でますます確信を強めていることがある。
「漫画はスモールビジネスで良い」
・・・ここ最近、僕はずっとそう思っている。
もっと正確にいえば、「コンテンツプラットフォームが多様化した現代においては、全世代にリーチする方法が存在しないので、スモールビジネスをやる方が向いている」と表現した方が良いかもしれない。
たとえば、冒頭に述べたジャンプが現在どういう状況に陥っているかというと、端的にいえば、読者が高齢化の一途を辿っている。
「花さか天使テンテンくん」の作者の小栗先生によると、連載初掲載号である1997年11号時点での読者の平均年齢が「14.7歳」だったのに対して、2021年3月時点での平均年齢は「28歳」だという。
#雑誌の日
— 小栗かずまた (@kazumata_oguri) March 4, 2021
この間、今の週刊少年ジャンプの読者の平均年齢が28歳と知って衝撃を受けました。手元にあった昔のジャンプのアンケート表を見たら、テンテンくん連載開始号(24年前)は平均年齢14.7歳。28歳って結構な社会人…。
このまま漫画雑誌読者の年齢層って、どんどん上がっていくのかなぁ。
ちなみに、大手少年誌はどこも似たようなものであり、僕の経験からいうと、たぶん今の平均年齢はもっと上がっていて、「30歳前後」ではないかと思う。
つまり、今から2〜30年前(1990〜2000年代)にジャンプを熱心に読んでいた小中高生が、そのまま年齢を重ねて大人になり、その人たちが今も熱心にジャンプを読んでいると考えるのが自然である。新しいお客さん(=若い読者)は増えていないのだ。
もし、若い読者が増えているというのであれば、平均年齢の上昇はどこかで頭打ちになるか、あるいは、下がっていかないとおかしい。
実際、「若者のマンガ離れ」というトピックで書かれた下記の記事によると、この20年でジャンプを読む中高生は10分の1に減ったとされている。
(ちなみに、この記事の中で触れられている『世代別の漫画不読率』を見ると、世代が上がっていくにつれて、漫画を読まない人の割合は増えていくので、熱心にジャンプを読んでいる人たちもいずれは読まなくなると予想される)
ただし、若者は、マンガそのものを読まなくなったのではなく、紙の雑誌が読まれなくなっただけで、無料で読めるスマホアプリに流れたのではないかと考える人もいる。
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もっとも、僕が問題視しているのはそこじゃない。
若者のマンガ離れが進んでいるのかどうかなんて、正直どっちでもいい。もっと重要な問題がある。
それはなにか。
仮に、現代の若者が、「週刊少年ジャンプ」ではなく、無料で読める「ジャンプ+」に流れたと仮定しよう。つまり、ちゃんと若者の間にも漫画カルチャーは残っていて、彼らの間にも流行りの漫画がある、と。
しかし、そうだったとしても、彼らの間で流行っている漫画が社会的なブームになることはないし、実際、そんな社会現象になるような漫画をひとつも聞いた(読んだ)ことがない。
なぜなら、世代間のトレンドやカルチャーはほぼ完全に断絶しているからだ。
おじさんが熱心に読んでいる「週刊少年ジャンプ」を中高生が読むこともないし、かと言って、中高生が熱心に見ている「TikTok」をおじさんが見ることもない。
おじさんが、女子中高生の間で流行っている韓流アイドルをまったく知らないのと同じように、今の女子中高生は山口達也チャンネルを知らないだろう(もちろんゼロではないだろうけど)。
ここが、ジャンプ黄金期と現代の一番大きな違いである。
世代ごとに触れているプラットフォームやコンテンツがまるっきり違うのだ。
はるか昔、「テレビ」という支配的なマスメディアが幅を利かせていた時代は、若者が新しいカルチャーやムーブメントを作り、それがテレビを通して、全世代に波及していった。
だから、ダウンタウンという新しいお笑いがブームを起こし、SMAPやモー娘。といった国民的アイドルも生まれた。親世代でも、若者の間で流行っているものを容易に知ることができたからだ。
しかし、今は違う。
「TikTokで大人気の◯◯ちゃん」と言われても、それが誰なのか分からない。
「Youtube登録者数▲▲万人の◯◯◯」と言われても、初めて聞いた名前だったりする。
10代の若者にしか分からない配信者。
30代の主婦にしか分からない韓流スター。
50代のおじさん会社員にしか分からないビジネス系Youtuber・・・等々。
それぞれの世代ごとに、それぞれの流行りがあって、それぞれの世代で消費されている。
エンタメとかファッションなども全部そう。それぞれで完結しており、その先がない。
だから、「若者が新しいムーブメントを作って、それが全世代に波及していく」というブームの法則はもうとっくに廃れたと考えた方が良い。
(少子化が進む現代では尚更そうである)
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僕は、この事実の方が重要だと考えている。
「100%不可能」と言ってるわけではないが、ジャンプのように、「若い作家に新しい作品を描いてもらい、それを若者の間で流行らせるだけでなく、全世代に波及させて新しいブームを作る(単行本やグッズを短期集中で売りまくる)」というビジネスモデルはかなり成立しづらくなっている・・・と言わざるを得ない。
もし流行ったとしても、「若者だけ」とか、「おじさん世代だけ」という限定的なブームになるだろう。漫画に限らず、どんな種類のコンテンツでもそれは同じである。
・・・でも、僕はそれで良いと思う。
むしろ、テレビ全盛期(≒ジャンプ黄金期)のように、「皆が同じコンテンツに触れて、皆が同じモノ・ヒトを好きになる」という状況の方が異様である。
生まれ育った環境も違うし、関わってきた人間や触れてきたカルチャー、学んできた知識だって全然違う。何だったら、言語も、肌の色も、宗教も違う。
そうやって、人それぞれ価値観や好みは異なっているはずなのに、まるで感情を操作されているかのように、なぜか同じものを崇拝する。テレビが「マインドコントロール装置」と揶揄されるのは、それが所以である。
だから、ジャンプが653万部売れていたのも本当は異常であり、100万部を下回るようになった今の方が正常だと思っている。僕からすれば、「発行部数が減少した」のではなく、「人々の好みが正常に多様化した」に過ぎない。現代人はマインドコントロールからやっと解き放たれたのだ。
だから、人それぞれ自分が好きなものを、それぞれのコミュニティの中で、好きなように享受していけばいい。今はそういう時代であり、僕が「スモールビジネスでいい」と言ってるのはそういう意味だ。
例えば、僕の好きな松村上久郎さんというイラストレーターは、「バンド・デシネ」という欧米圏の漫画スタイルで作品を描き、それをSNSなどを通じて宣伝し、ネットで販売したりしている。そうやって独自のコミュニティを作り、コアなファンを獲得して、自分なりの規模でスモールビジネスを展開されている。
ジャンプの部数(読者)が減っていく一方で、こうやって自分の手の届く範囲だけでビジネスをやっているクリエイターもいる。
「一億総表現者の時代」と言われる現代において、むしろ松村さんのような小規模ビジネスの方が、漫画のあり方に合っていると思えてならない。
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最後にひとつ余談を。
たぶん、今後の出版社の役割は、「プロモーター」から、「スポンサー」や「インベスター」へと変容していって、「ビジネスとしてスケールできるものにだけ出資する」という役割を担うようになると思う。
例えて言うなら、「やる気のある若者を雇って、繁盛店の店主に育てる」のではなく、「SNSでバズりまくっている田舎のラーメン屋をフランチャイズ化する」・・・みたいな話だ。口は出さずに金だけ出す、みたいな。
「気になってる人が男じゃなかった」を執筆されている新井すみこ先生もまさにそうで、同作がSNSでバズったのをきっかけにして、出版社(KADOKAWA)から単行本化のお声がかかった。
しかも、SNSでバズってる漫画の単行本は売れづらい傾向があるにもかかわらず、Xの作品更新だけで、200万部以上のヒットを記録している。「百合」という決してメジャーなジャンルではないにもかかわらず、だ。
作家からすれば、これが理想であることは言うまでもない。
これまでの商業漫画というのは、(特に週刊連載の世界においては)連載しているだけでは赤字であり、単行本がヒットしてようやく黒字になる・・・という意味の分からない搾取ビジネスだった。
「将来ヒットすれば赤字をカバーできるよ!それまでは耐え忍ぼうぜ!」と、漫画家にリスクを負わせて、ガッポリと印税を取ってきたのだ。そんなの漫画家からすれば嫌に決まってる。
そうではなく、基本はリスクを負わないスモールビジネスを展開していって、新井先生のようにビジネスとしてスケールできる場合のみ、出版社が出資して単行本化し、利益を分配する。この方がよっぽど健全である。
逆にいえば、それ以外に出版社の役割はなくなる。そんな日が来るような気もしている。










