箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

マリカー訴訟の判決文を読んでみました。

任天堂株式会社が、株式会社マリカー(現商号・株式会社MARIモビリティ開発)及び同社の代表者に対し、著作権法・不正競争防止法違反などを理由として、「マリカー」等の標章の使用の差止めや損害賠償を求めていた訴訟について、昨日、その判決文が公開されました。

(判決文は こちら から閲覧できます)

 

同訴訟をめぐって、任天堂が勝訴したという一報を聞いたとき、「そりゃ、そうだろう」と思いましたが、株式会社MARIモビリティ開発(以下「MARI社」)が、2018年9月27日付で、「地裁判決に関するお知らせ」と題するプレスリリースを発表し、その中に気になることが書かれていたんですね。それがこちらです。

株式会社 MARI モビリティ開発(以下「当社」)及び当社の代表取締役社⻑である⼭崎雄介を被告として、任天堂株式会社より、平成 29 年 2 ⽉ 24 ⽇付で提起されていた不正競争⾏為差⽌等請求事件について、平成 30 年9 ⽉ 27 ⽇付で、東京地⽅裁判所より判決が⾔い渡されましたので、下記のとおり、お知らせ致します。
当社の主張が認められた部分については、当社の主張の正当性が裁判所で認められたことを喜ばしく受け⽌めるとともに、⼀部主張が認められなかった部分については誠に遺憾であり、内容を精査して引き続き対応して参ります。

(下線は筆者によるもの)

 

私は、「当社(MARI社)の主張が認められた部分」というのが、一体何なのかずっと気になっていました。判決文が公開されるのであれば、確認しなければ…!ということで見てみました。

 

外国人に対する「マリカー(maricar)」の周知性は否定されている。

東京地裁は、被告に対し、「マリカー」等の標章を、営業上の施設及び活動において使用してはならず、営業上の施設、広告宣伝物及びカート車両から抹消するように命じていますが、よく見ると「外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシによるものを除く。」とされています。

「これはなんぞ?」と思い、判決文を読み進めていくと、「マリオカート」の略字である「マリカー」という文字表示の周知性について、東京地裁は、過去のマリオカートシリーズのゲームソフト出荷本数、ゲーム雑誌の記事等に言及しつつ、次のように判示しているんですね。

マリカーは,広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として,本件証拠上、遅くとも平成22年頃には,日本全国のゲームに関心を有する者の間で,広く知られていたということができる。

(中略)

他方,前記のとおり,日本語を解しない者の間では原告文字表示マリカーが周知又は著名であったとはいえず,それらの者の間では,原告文字表示マリカーとの関係において,被告標章第1に接した需要者に対し,それを付した営業が原告又は原告と関係があるとの混同のおそれを発生させるものとはいえない。

(中略)

本件レンタル事業の需要者には日本語を解しない者もいるところ,被告会社は,外国語のみが記載されたウェブサイトやチラシを作成等していて,日本語のウェブサイト等がある状況でこれらは日本語を解しない者のみを対象とするといえる。前記に照らし,日本語を解しない需要者のみを対象とする行為において被告標章第1を表示することを差し止め,これらの広告宣伝物から同標章を抹消させることは認められ(ない)。

(太字及び括弧内の表記は筆者によるもの)

 

これは、「マリカー」等の標章が、外国人にとって周知かつ著名とはいえないとする被告・MARI社側の主張が認められた形となっています。

ということは、外国語で作られたサイトなどでは、「maricar」という標章を使用しても良いということになりますが、これは任天堂からすると、かなり悔しい部分じゃないかな…と思います(MARI社の主要ターゲットは、訪日外国人観光客であったため)。

 

著作権侵害の主張は排斥されている。

本訴訟では、MARI社が貸与しているコスチュームや宣伝のために用いている写真・動画が、マリオやルイージといった任天堂の著作物を無断で複製、翻案、公衆送信等するものとして、著作権侵害の有無も争点となっています。

これに対して、被告側は、「抽象的,一般的な差止請求は認められない」として、争う姿勢を見せ、マリオの帽子や衣服のデザインにつき、「このような帽子や衣服のデザインに著作権法の保護を与えれば,新規性や創作容易性といった厳格な要件をクリアしたもののみ20年に限って独占的実施を認める意匠制度の存在意義がなくなってしまう」などと主張。

 

東京地裁は、次のように判示して、著作権侵害の主張を退けました。

原告表現物を複製又は翻案する行為には,広範かつ多様な行為があるところ,原告の請求は,絵画の著作物である原告表現物を絵画上複製するという行為がされていない本件において,差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく,広範かつ多様な態様な行為のすべてを差止めの対象とするものといえ,自動公衆送信又は送信可能化の差止めについても,その差止めの対象自体を複製物又は翻案物とすることから,同様のものといえる。このような無限定な内容の行為について,被告会社がこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めるに足りる立証はされていない。

(太字は筆者によるもの)

 

なお、マリオやルイージを連想させるコスチュームの著作権侵害については、不正競争防止法に基づくコスチュームの使用禁止を求めた請求と選択的併合の関係に立つものとして、「本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否かは判断するには及ばない。」としています。

この東京地裁による判断についても、「抽象的、一般的な差止請求は認められない」という被告側の主張が認められる形となっています。

 

とはいえ、敗訴であることに相違なし。

判決文を読むと、MARI社側の主張が認められた部分というのが何なのか分かりましたけど、結局、コスチュームの貸与ができず、カートから「マリカー」という標章を削除しなければならないのであれば、従来のビジネスを継続することは困難であり(今も継続して営業中らしいですけど)、敗訴であることに変わりありません。

天下の任天堂を敵に回してでも、訴訟を続ける姿勢を崩さないMARI社ですが、どこまでこの争いは続くのでしょうか…。