箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

就活学生が見るべき企業のコンプライアンス上のポイント

学生_就職活動

 現在、BIZLAWの連載企画として、株式会社リクルートキャリア(就職みらい研究所所長)の岡崎さんによる「今、学生が仕事を選ぶ目 企業を見抜く目」という、学生と企業とのマッチングやコミュニケーション関連の記事が掲載されていますが、日々バックオフィス業務に従事している法務担当者という立場から、就活をしている学生が見るべき・聞くべきポイントをいくつか書いてみたいと思います。

 

 

はじめに

 まず、私は、大学卒業後、そのままロースクールに進学し、ロースクール修了後も司法浪人をしていたため、新卒で就職した経験がありません。学生時代に就職活動をしたこともないです。1社目の就職は第二新卒という扱いでしたし、2社目の転職は中途キャリア採用でした。ですので、学生の就職活動の苦労を100%理解しているかと言われると、そうとは言えません。

 ただ、人事・労務と法務の業務が重なる領域については、人事部門と密に連携を取りますし、採用活動に関する相談を受けることもあります。また、管理職や役員向けのコンプライアンス研修なども行っているので、このレイヤーにいる経営上層部のコンプライアンス意識なども(それなりに)把握しているつもりです。

 

 そのような経験を通して、私自身、ブラック企業かどうか、又はコンプライアンスを重視する誠実な企業なのかどうかを見極めたいのであれば、会社のこういう部分を見たらいいんじゃないかという提案として本記事を書いてみます。

 なお、本記事で言及したことを確認したからといって、その企業のコンプライアンスが全て分かるというわけではありませんが、何かしらの参考になれば幸いです。

 

「企業名+ブラック」で検索した情報について

 これは岡崎さんもおっしゃっていますが、「企業名+ブラック」で検索し、そのような口コミ情報がヒットしたからと言って、即ブラック企業と認定するのはナンセンスです。

 と言いますのも、どのような企業であっても、必ずミスマッチを起こす人材や不満を抱えている社員というのは存在します(もし、そんな社員が1人もいないという一定規模以上の会社があるのであれば教えて欲しいです)。

 

 すると、そのような社員が、転職会議などの口コミサイトに不満を書き込むこともあり、そのようなネガティブオピニオンがどうしても目立ってしまうのです。もしかしたら、不満を抱えているのは、ごく一部の社員だけで、残りの社員は全員満足しているというケースだって考えられます。それなのに、一部の意見だけで判断するなんて実に勿体無い。

 また、記事中にもありますが、過去に法令違反を起こした会社であっても、経営陣がそのことを猛烈に反省し、コンプライアンスを強化して企業体質をガラッと変えたという例もあります。私の知っている会社の中には、始業の1時間前の出社を義務付け、毎日の朝礼で社訓を大声で張り上げるという、絵に描いたような体育会系の会社がありましたが、新社長に交代してから、古い伝統を全て捨て去り、「始業時間までに出社すればOK」「朝礼なし(やっても意味ない)」「飛び込み営業は効率悪いので廃止」「10時以降の残業禁止」「無意味に怒鳴るマネージャーは無能の烙印を押す」と、社内ルールを次々と変えた会社もあります。

 

 もちろん「企業名+ブラック」で検索しても良いと思いますが、ネガティブな情報が出てきたとしても、参考程度にとどめるか、その部分について事実調査をするのが吉だと思います。岡崎さんも上記記事の中で、次のように指摘されており、正鵠を得ていると思いますね。

今、企業選びで大事なのは「悪い事実があるか・ないか」ではなく、それを「改善しているのか、それとも放置しているのか」という事後対応を調査することです。企業側としても、この部分をおろそかにしている企業はますます厳しい状況に置かれていくと思います。

 

確認すべきポイントは〇〇〇

 なかなか管理職や役員クラスの面接官に対し、突っ込んだ質問はしにくいかもしれませんが、一番意味がないのは「コンプライアンスについてどのようにお考えですか?」「どのようなコンプライアンス施策を行っていますか?」という抽象的・ありきたりな質問です。

 こんな質問をしても、「弊社では、定期的にコンプライアンス研修を行い~」「セクハラ・パワハラの相談窓口や内部通報窓口を設置して~」と、テンプレ回答が返ってきて終わりです。双方にとって何も得られるものがありません。

 

大企業の役員には組織体制の詳細を聞こう。

 会社法は、一定の企業に対し、内部統制システムの構築義務を課しており(会社法362条5項、348条4項など)、もし内部統制システムの構築義務を負っている企業を受けるのであれば、役員に対して、内部統制システムにおける「業務の適正を確保するための体制」について質問するのが良いと思います(詳細については、IR情報の株主総会の招集通知や決算報告書などに記載されているので、事前に確認しておきましょう)。

 何故なら、企業風土として、コンプライアンスを根付かせるためには、その前提として、組織の体制作りが不可欠であり、このことをちゃんと理解しているコンプライアンス意識の高い会社は、表面的なコンプライアンス施策だけではなく、組織の構造的な問題もしっかりと考えているはずだからです。逆に言えば、その部分を聞かなければ、コンプライアンスを重視している会社かどうかなんて分かりません。

 

 そして、「業務の適正を確保するための体制」の中には、法令遵守体制などが必ずと言っていいほど記載されています。書かれていることはテンプレ文言だったり、それぞれの企業のカラーが出ていたりと様々ですが、「内部監査部門による事業活動の適法性・妥当性監査に関して、取締役会や代表取締役への報告体制や報告頻度について教えてください」とか、「社外監査役による会計監査は、監査法人とどれぐらい連携して行っているんですか?」とか、「海外子会社のコンプライアンス体制について、どのようなフローで統制しているんですか?」とか、深く突っ込んで聞いてみてください。

 中には、ここらへんを全て管理部門に任せきりで、ほとんど把握していない役員がいるかもしれませんが、言葉を濁したり、「生意気な学生だな」と不機嫌になるようだったら警戒して良いかもしれません。逆に、答えられる範囲でしっかりと回答したり、分からなかったとしても、「ちゃんと確認してから回答する」という対応をするなら、コンプライアンス意識のある誠実な役員だと思いますし、そういう役員がタクトを振る企業であるならば、コンプライアンスが根付いているのではないかとの推測が働きます。

 

中小企業の経営者や管理職にはビジョンを聞こう。

 他方、内部統制システムの構築義務を課せられていない会社や、そこまで規模が大きくない会社を受けるのであれば、経営者に対し、コンプライアンスを重視する企業風土を確立・強化するためにどのような構想をお持ちなのかを聞いてみてください。企業規模にかかわらず、管理職に対しても、同様の趣旨で、どのような視点を持っているのかを聞くのが良いと思います。

 ただ、このフェーズにある企業の経営者や、全社的な意思決定を行う立場にない管理職に対し、完璧を求めることは酷です。岡崎さんも下記のようにおっしゃっていますが、これもまさにその通りで、法的知識があるかどうか、現に法令を遵守しているのかどうかを確認しても、デメリットの方が大きいと思います。

法律を盾にしてコミュニケーションに挑むと、会話が成立しないこともあります。法令を守るべきというのはその通りですが、法律も日々変わる中で、中小企業は法改正情報をキャッチアップ中ということもあります。査察に行くわけではないので、あまりデジタルに「これは×ですね」という会話をすると、相手は心を閉ざしてしまう可能性もあり、本来得たかったはずの「相手の深層を知る」こととは矛盾したコミュニケーションになってしまいます。

 

  あくまでも、コンプライアンスに関する将来的なビジョンを持っているか否か、持っているとして、それはどのようなビジョンかを聞く。理論武装をして質問をしていると、粗ばかりが目立って、相手の良さが見えてこないおそれがあります。ただ、あまりにちゃらんぽらんな答えが返ってきたり、何も考えていないことが透けて見えてしまった場合は、その直感を信じてもいいかもしれませんね。

 

大切なのは「答え」を持っていることではなく「問題意識」を持っていること。

 私は、コンプライアンス研修をしていて、「答え」を提示しているつもりはありませんし、「答え」を持ち帰って貰おうとも思っていません。白・黒のいずれにも解釈できる法的問題なんて、この世にはたくさんあるからです。また、無理にでも「答えらしきもの」を押し付けようとすると、物凄く退屈な研修会になって、あくびといびきが会議室に鳴り響きます。

 敢えて持ち帰って欲しいものがあるとすれば、それは「問題意識」です。コンプライアンス経営を実現するための正解なんてないし、大切なのは、日々そういった問題意識を持ち、組織を改革しようとしているかどうかです。管理職向けの研修会をやった後、わざわざ質問しに来て下さるような管理職の方は、問題意識をちゃんと日常業務に持ち帰っているし、ちゃんと社内ルールも守られています。

 

 あれこれ書いてきましたが、学生の就活生は、企業を見る際、コンプライアンスに関する「答え」を持っているかどうかを確認するのではなく、「問題意識」を持っているかどうかを確認すべきだと思いますね。結局のところ、私が言いたいことはコレに尽きます。

 そして、その問題意識が、自分の感覚と合っているかどうかを基準としてみてはどうかと思います。問題意識が合致している企業であれば、ミスマッチは防げるのではなかろうかと。そのためには、まず学生自身がしっかりと学ぶことが前提となることは間違いないですが、行き着く先は、企業と学生の双方が、問題意識を共有できるかどうかだと思います。