箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

神戸製鋼所「原因究明と再発防止策に関する報告書」について

 少し遅れましたが、神戸製鋼の報告書を読んだ感想を書き留めておこうと思います。

 なお、報告書は こちら から閲覧できます。

 

 

神鋼は不適切行為の原因をどう分析したか。

 報告書によると、今回の不適切行為の原因は、次の5点にあるとまとめられています。

(1)収益評価に偏った経営と閉鎖的な組織風土
(2)バランスを欠いた工場運営
(3)不適切行為を招く不十分な品質管理手続き
(4)契約に定められた仕様の遵守に対する意識の低下
(5)不十分な組織体制

 

 これらの見出しだけを見ていると、企業不祥事が起こるメカニズム・原因には、ある種の普遍性のようなものを感じます。収益を追求する偏向経営、上層部に意見できない風通しの悪い企業風土、下部組織への権限移譲・裁量権肥大による監視機能の不全、独自の社内ルールの横行、経営上層部と現場との間の問題意識の剥離、長期にわたる不適切行為の継続による遵法意識の低下など。

 以下、原因項目について抜粋しながら目を通していきたいと思います。

 

収益評価に偏った経営と閉鎖的な組織風土

 神戸製鋼は、収益重視の評価を推し進め、経営のスピードと効率化を図るために下位組織に権限を委譲し、その結果、各組織での自己統制力に依存する状況となったと分析したうえで、次のように続けます。

本社経営部門による事業部門への統制が、収益評価に偏っていたことから、経営として工場において収益が上がっている限りは、品質管理について不適切な行為が行われているような状況にあるか否か等、工場での生産活動に伴い生じる諸問題を把握しようという姿勢が不十分であった。
この経営管理構造が、「工場で起きている問題」について現場が声を上げられない、声を上げても仕方ないという閉鎖的な組織風土を生んだ主要因と認識する。

 

 ここで言わんとしていることは分かりますが、収益が上がっている限り、現場での諸問題を把握しようとしない経営陣の姿勢が、批判的意見を封殺する閉鎖的な組織風土を生んだというより、そのような消極的な姿勢が、不適切行為の常態化を招く湿度の高い環境造成に繋がってしまったと言う方が適切のような気がします。「閉鎖的な組織(人の固定化)」という項目(13頁)においても同様の趣旨のことを述べているように思うのですが、どうなんでしょうか。

 批判的意見・内部告発を封殺するような動きがあったのであれば、自浄作用の機能不全という別の問題になると思いますが、2003年にコンプライアンス委員会が設置され、内部通報制度が導入されているものの、この点については、「品質に関しては過去大きく問題になった不適切事案の再発防止を念頭に注力してきており、今回の問題のような顧客仕様遵守に力を割いてこなかった側面があることも否定できない(15頁)」と述べるにとどまっています。

 

契約に定められた仕様の遵守に対する意識の低下

 ここでは、要求品質よりも顧客満足度、すなわち生産量や納期が優先されるようになり、顧客との深い関係性の中で生じた従業員の意識の変化について触れられています。

担当者の中には製品が顧客仕様に適合するか否かではなく、顧客からのクレームを受けるかどうかが重要であるという考えに変質していった者もいた。そのような者が検査項目と工程能力を総合的に考慮しながらクレームを受けない範囲で改ざんを行って業務を進めていたと推察される。

(太字は筆者によるもの)

 

 これはどの企業でも当てはまる問題で、たとえ監視機能が不全に陥っていなかったとしても、担当者が、企業と顧客の双方にとってwin-winとなるような最適解を見つけようとした結果、法令や社内ルールとは異なる独自の基準が生まれることもあります。

 あとで、このような問題が発覚し、担当者にヒアリングをすると、本人に全く悪気はなく、むしろそれが正規のルールだと認識していた社員もいます。要するに、神戸製鋼で常態化していた独自ルールの構築というのは、ルールを破る積極的動機がなく、遵法意識が低下していない状況下においても起こるものであり、このような些細な従業員の意識の変化に対し、管理部門は恒常的に注意を払う必要があります。

 神戸製鋼では、そのような独自ルールに基づく不適切行為が継続・常態化していったとのことですが、この点を早期に発見できなかったことは、コーポレートガバナンスの観点から見たときに致命的でしたね。

 

不十分な組織体制

 高度の専門性ゆえに各事業所の裁量が大きいことなどが理由でしょうか。品質管理が十分に行き届いていなかったどころか、「アルミ・銅事業部門の直轄組織である企画管理部、技術部には品質監査機能は無きに等しい状況」だったと述べられています。また、「品質保証や品質管理に係わる教育も体系化されておらず社内研修も不徹底であり、意識改革が図られることがなかった」と、かなり自省の念を込めた分析をしています(15頁)。

 ただ、「コンプライアンス機能の逐次強化を図ってきた」とはいうものの、倫理相談室やコンプライアンス委員会の具体的な施策内容については触れられておらず、相談件数などについても開示されていません。また、2010年に設置された「ものづくり推進部」について、品質監査機能の設置が見送られた理由も不明確であり、再発防止策として、品質保証部・品質監査部を設置することにより、過去の不透明な部分については蓋をするという印象も受けます。

 

再発防止策について

 最後に、再発防止策について少しだけ触れます。

 私が気になったのは、「言いたいことが言い合える活気ある職場風土づくり」という部分。これ、どの企業もやろうとしてなかなか出来ないんですよね。

 

「なんでも言い合える、耳に痛いことも言える」風土を築く。

職場単位での本音で意見が言い合える場や、工場トップと職場の階層別の対話の場を設け、風通しの良い職場づくりを進める。

 

 凄く大事なことですが、経営上層部や現場責任者とコミュニケーションをとる場を設けるだけではダメだと思います。経営者と従業員の距離が近いから「風通しが良い」と言うなら、毎日社長と従業員が顔を合わせる中小企業は全て風通しが良いことになりますけど、決してそんなことはなく、物理的距離なんて関係ないんですよ。

 神戸製鋼の場合、品質検査フローの見直しなど、他にも取り組まなければならない課題が山積していますが、是非組織として生まれ変わって欲しいと願います。