昨日、日大アメフト部の選手(以下「日大選手」といいます。)が、実名・顔出しで記者会見に応じました。
実のところ、明日24日、日大の正式回答(2回目)が出されるのを見てから、再度ブログでこの問題を取り上げようと思っていたのですが、若干20歳の学生が、記者会見を開くという異例の事態を目の当たりにし、日大アメフト部及び日大の対応にとてつもない違和感を感じたため、フライングで記事を書きます。
(前回の記事はこちら↓)
日大アメフト部の対応は完全アウト。
企業不祥事に例えてみます。
ある有名企業に勤める社員がコンプライアンス違反を起こし、周囲から「経営上層部による不正行為の指示があったのではないか?」と疑われている最中、社長が全く表に出てこず、コソコソと逃げ回っていたとしたら、世間は「クロ」と見なします。「弁明できることがあるなら、公の場に出てきて弁明すればいいし、やましい気持ちがあるからこそ、弁明できないのだろう」と。
このような対応は、経営トップとしてはあり得ない行動ですし、危機管理を心得ている経営者であれば、どこまで詳細に話すか、どのように話すかは別として、ひとまず会社としての見解を発するのが普通です。と言いますか、説明責任を果たすべき立場にある者はそうしないといけないんです。
法務の立場から見ますと、指示があったかどうかに関わりなく、そのような初期対応をとらなかった時点で、内田前監督をはじめとする日大アメフト部の対応は完全アウトです。「なぜ、すぐにコメントを出せなかったのか?」と、体制の不備を突っ込まれることになりますし、苦しい言い訳に終始することになります。そもそも、すぐに謝罪しなかった時点でアウトですけどね。
また、初期対応だけでなく、その後の対応も完全アウトです。
社長の責任が問われている渦中において、やっと社長が姿を現して、「この場ではお話できません。調査のうえ、後日書面で回答します」と言葉を発したら、世間は「どこまで逃げるつもりなんだ」「誠実さのかけらもないな」と思うでしょう。社長が表に出てくる以上、周囲は、詳細な話が聞けると期待しますし、組織の危機的状況において、「黙して語らず」という態度をとることは、トップの人間がやることではありません。
「全ての責任は自分にある」と言いつつ、説明責任を果たせない時点(そのような人間がトップに立っている時点)で、正直、日大アメフト部に期待できることは何もありません。彼らを突っついても何も語らないのですから、あとは、アメフト部を総括する立場にある日本大学が全ての問題を引き受けて、真相の究明と説明責任を果たしていくしかないと思います。
日本大学の対応も今のところアウト。
日大アメフト部の部長および監督名義で提出された当初の回答文によりますと、「選手に対して、ルールに基づいた厳しさを求めることはあっても、違反行為を指示するようなことは全くない」「指導者による指導と選手の受け取り方の間に乖離があった」と弁明しています。
しかし、日大選手および日大選手の記者会見に同席した代理人弁護士の話によりますと、反則行為があった試合当日はもとより、試合後においても、問題となった反則行為に対して、監督・コーチからの聞き取り調査はなかったと明らかにされています。選手に対して、大学からの聞き取り調査はあったようですが、それはアメフト部による聞き取りではないという点も代理人弁護士が確認しています。
アメフト部からの聞き取り調査が行われていないのに、なぜ「乖離があった」と言えるのか。代理人弁護士の方によるこの問題提起はまさにその通りですし、非常に鋭い視点だと思います。要するに、上記回答文は、日大選手が監督・コーチの指示をどのように受け取ったのかという点について、アメフト部が確認していないにもかかわらず、「乖離があった」と一方的に決めつけて提出されたモノだということです。
内田前監督は、説明責任を果たす気がないようですから、日大アメフト部にまともな回答を期待するのは無理な注文だと思います。それならば、せめて日本大学にまともな回答を行って欲しいと願うばかりですが、日大選手の記者会見を受けて、日大広報部は下記コメントを発表しています。
会見全体において、監督が違反プレーを指示したという発言はありませんでしたが、コーチから「1プレー目で(相手の)QBをつぶせ」という言葉があったということは事実です。ただ、これは本学フットボール部においてゲーム前によく使う言葉で、「最初のプレーから思い切って当たれ」という意味です。誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います。
(下線は筆者によるもの)
このコメントに対して、何とも言えない "気持ち悪さ" を感じるのは私だけでしょうか。
日大選手は、「潰せ」という指示があったことだけではなく、「相手のQBがケガをして、秋の試合に出られなかったら、こっちの得だろう。これは本当にやらなくてはいけないぞ」と、コーチから念を押されたことも証言しています。これは違反の指示ではなく、監督のいう「潰せ」という指示が、「ケガをさせろ」という意味であることを明確にする趣旨の発言です。
もし、「潰せ」という指示が、日大アメフト部において、伝統的に「思い切って当たれ」という意味で用いられており、試合当日においても、監督がそういう意図で使用していたのだとすれば、監督による指示とコーチの受け取り方の間にも乖離があったということになります(あくまでも、本当にそういう意味で使用していたら…という話ですが)。
ならば、問題の本質は、指導者による指導と選手の受け取り方の間の乖離ではなく、監督の指示を正しく把握できなかったコーチ陣の情報共有・意思疎通の問題ということになりませんかね。監督の意図はさておき、監督の指示をコーチが勘違いして、誤って選手に伝えていたんですから。
選手が会見で話されたとおり、本人と監督は話す機会がほとんどない状況でありました。宮川選手と監督・コーチとのコミュニケーションが不足していたことにつきまして、反省いたしております。
いや、違うでしょ。上記の理屈でいうなら、反省すべきは監督とコーチの間のコミュニケーションが不足していたことなんじゃないんですかね。
この点に関する言及が一切なく、「監督が違反プレーを指示したという発言はありません」と結論付けるのは、問題の本質からズレていますし、事実の確認及び適示があまりにも稚拙です。
あとですね。「潰せ」という言葉が「思い切って当たれ」という意味で用いられているという事実について、監督・コーチなどのアメフト部関係者からの聞き取り調査によって判明したものと想像しますが、この点について、大学は、日大選手に確認したんですかね?
少なくとも記者会見での話を聞いている限り、日大選手は、こういう指示を恒常的に受けていた様子はなく、本当に試合前によく使われる言葉なのか?と疑問に感じます。もし、日本大学が、監督・コーチの説明だけを一方的に採用しているのだとすれば、日大の調査に全く公平性はなく、そんなコメントを垂れ流している時点で、日本大学の対応も非常にお粗末な印象を受けます。
日大にとって、ここから先はいずれにせよ茨の道。
日本大学は、「反則行為の指示があった」という選手側の主張を採用することも出来たはずであるのに、「監督・コーチによる違反プレーの指示はなく、指導者による指導と選手の受け取り方との間に乖離があった」というアメフト部が提示した当初のシナリオを採用しました。おそらく、明日もその旨を繰り返す回答文を発表するのでしょう。
この道を選んだ以上、ここから先は本当に茨の道です。もし、監督・コーチに捜査が及ぶなどして、反則行為(暴力行為)の指示の事実が明らかとなれば、監督・コーチに協力して、事実を隠蔽しようとしたのではないかとの批判は避けられません。
そうでなかったとしても、「学生を見捨てた大学」「学生を守れなかった大学」というイメージはずっとつきまといます。このイメージダウンを回復させるのは並大抵のことではありませんよ。
引き返せないところまできてしまったという印象も受けますが、ひとまず明日24日の回答に注目したいと思います。
(2018年5月24日追記)
この記事をあげた直後に、日大アメフト部・前監督およびコーチによる記者会見が開かれ、改めて違反の指示はなかったと釈明しましたね。双方の主張の食い違う部分については、今後の捜査の中で明らかにされていくことを願います。