箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

潜在的な「通り魔予備軍」と相互監視社会が担う役割

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  つい先日、ニュースなどで流れていましたが、新宿駅で女性にわざとタックルする男性の動画が話題になっていますね。

 

www.j-cast.com

 

 肩がぶつかるぐらいだったら、ただの迷惑行為ぐらいで済むかもしれません。ただですね。もし仮に、ぶつかった拍子に相手の女性が転倒し、ケガでもさせたられっきとした刑事事件になります。

 なので、もしこういう男性の標的にされて、タックルされたら、演技でもいいので転んでみたり、思いっきり痛がってみましょう。本人もまさか大ごとになるとは思っていないはずなので、たぶん慌てふためくと思います。あるいは、女性しか狙えないチキン野郎なので、その場から逃げ去ると思います。

(もちろん、本当にケガしそうな危険なタックルなのであれば、自らの身を守ることを第一に考えるのが前提です)

 

 とまあ、私が思う対処方法はそのぐらいにして、本題に入ります。

 今回の件を目にして、私が思うことは、まず一つ目に、こういう無差別な迷惑行為を行う通り魔予備軍が、一定数私たちのすぐ身近に潜在しているということ。もう一つは、これまでは検挙に至らなかった通り魔暴行犯を検挙できるかもしれない世の中になってきたということ。主にこの2つです。

 

通り魔事件の検挙件数の推移から見る実情

 法務省の公表している「犯罪白書」や、警察庁が公表している「犯罪情勢」を見る限り、平成5年以降、通り魔殺人事件の検挙(認知)件数は、平成20年の14件を除けば、いずれも9件以下で推移しています。これは、昭和55年の統計にまで遡ってみても、同じような件数で推移しているように見受けられます。

(昭和55年以降、通り魔殺人の検挙(認知)件数が10件を超えた年は、昭和57年、昭和60年、昭和63年、平成8年、平成10年、平成20年だけです)

 

 つまり、直近の約40年間、日本における通り魔殺人は、増えるわけでもなく、かと言って減るわけでもなく、年によって多少の振れ幅はあるものの、一定数を保ちつつ推移しています。

 そして、(古いデータになってしまいますが)昭和57年の犯罪白書を紐解きますと、通り魔事件の発生件数は、総数254件、罪名別では、殺人が7件、傷害が112件、暴行が25件となっています。同資料において、「被害者と全く無関係な犯人による通りすがりの犯行であるため、犯行後犯人が逃走した場合、その特定が難しく、検挙が困難」という記述があることから、おそらく、検挙に至らなかった暴行傷害事件が、通り魔殺人事件の背後に相当数潜んでいると思われます。

 

 そう考えていきますと、話題の彼は、今のところ、ただぶつかっているだけなので可愛いものですが(迷惑極まりないですが)、むしゃくしゃがエスカレートされていき、そのうち、女性を殴りつけたり、凶器を使って殺傷するなどの犯罪行為に及ぶのではないかと疑ってしまいますし(ただ、話題の彼については、そこまでの度胸はないと思いますが)、そういう「通り魔予備軍」が、一定数自分たちの身近に存在するということを、我々は常に頭の片隅に置いておかなければならないと思います。

 

相互監視社会の到来によって泣き寝入りは減る…かもしれない。

 通り魔事件のうち、殺人事件については、犯罪認知後、年内に検挙されることが大半です。秋葉原無差別殺傷事件のように、大勢の人混みの中で犯行に及び、その場で現行犯逮捕されることもあります。

 しかし、上述のとおり、殺人には至らない傷害、暴行、痴漢等の通り魔事件の場合、犯行後、すぐに犯人がその場を後にすると、現場には証拠らしきものは何も残らず、被害者と特定の接点を持たない犯人を特定することは困難を極めることになり、被害者は泣き寝入りせざるを得ないことがほとんどでした。

 

 こうした流れの中で、近年、監視カメラの設置数の増加とともに、スマートフォンが爆発的に普及したことにより、突発的に発生した犯罪であっても、写真や動画という形で証拠保存することが可能な相互監視社会が到来しました。先日の日大と関学大のアメフトの試合においても、問題となった反則行為は動画という形で鮮明に記録されています。

 そして、今回の迷惑行為についても、バッチリ動画という形で記録されています。監視社会の到来によるプライバシー権(自己情報コントロール権)の侵害の問題とか、ロースクール時代に憲法の論文試験で出題されたような気もしますが、このような相互監視の傾向は、犯罪の抑止・検挙に資するものであることはもはや疑いようがないと思われます。これまでだったら泣き寝入りせざるを得なかったような通り魔事件であっても、今後、多少なりとも検挙率が上がることを期待します。

 

通り魔予備軍のうちに心の闇に光を照らす社会を。

 凶悪な無差別殺傷事件を起こした犯人の供述を聞いていますと、歪んだ正義を持っている犯罪者もいますし、ハッピー・スラッピングのような愉快犯もいますが、社会に対する不満や劣等感が徐々に蓄積され、ある時、その不満が一気に爆発する犯罪者もいます。

 話題となっている彼も、何かしらイライラするようなことがあったんだと思います。自分より弱い立場にある女性にわざとぶつかってストレスを解消しているつもりなんでしょう。やっていることは本当に幼稚なんですが、彼の抱えるストレスが一過性のものではなく、彼の心を覆いつくす闇なんだとしたら、彼のタックルは、迷惑行為であると同時に、SOSサインでもあると思うのです。私にはそう見えます。

 

 良い歳をした大人が、そんな形でしかSOSを出せないこと自体、おかしな話なんですが、拡散された動画を見た彼の友人や身近にいる人間が、彼の異変に気付いてあげられたら良いなと思います。最終的に、自分の心と向き合うのは本人ですし、これから先の人生は全て彼自身の責任ですが。

 そんなことをあれこれと考えていきますと、相互監視社会の到来は、これまで泣き寝入りをせざるを得なかった被害者を救済するだけでなく、社会の雑音の中に消えゆく運命にある人々の心の闇とSOSの声に対して、スポットを当てることにもなるんじゃないかとも思えます。