箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

海賊版サイトのブロッキング議論におけるユーザーのハブられ方

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 いわゆる海賊版サイトのブロッキングをめぐって繰り広げられている議論を見ていますと、何と言いますか、「ユーザーのハブられ方、半端ないって!」と言いたくなります(すみません、思い切り乗っかりました)。

 

 この種の議論は、思い返せば、児童ポルノサイトに対するブロッキングが発端だったと思いますが、その時は、権利侵害の深刻さ、早急に権利を保護すべき緊急性等の観点より、現在の危難の存在、補充性、法益権衡という緊急避難の要件を満たすことに疑いはなく、特に強い異論はなかったように思います。

 しかし、民主的プロセスを経なかったことの弊害は大きく、海賊版サイトについてもこの理を拡大し、児童ポルノサイトのブロッキングが可能なのであれば、海賊版サイトについてもブロッキング出来るだろうと安易に行政が判断して、ブロッキングという超法規的措置(超例外措置)を、立法措置を経ることなく、ISPに要請してしまっている異常事態が起こっています。

 

ドワンゴ川上氏の意見に違和感

 ブロッキング肯定派のドワンゴ・川上社長(知財本部・インターネット上の海賊版対策に関する検討会議メンバー)は、ご自身のブログにおいて、政府の対応に対し、以下のようにコメントされています。

結論からいうと、今回の緊急避難的な3サイトのブロッキングについて、積極的な姿勢を示した政府の決定を支持します。ネットなどをみても、議論に時間をかけていない、いきなりすぎると、批判の声があがっていますが、政府がいかに緊急の事案であったとしても、こんなに迅速に対策を練り、実行にうつすのは珍しいことではないでしょうか。普段、政府の行動の遅さ、危機感の無さに文句をいっているであろう我々が、政府の行動が早いことに対して、まず批判から入るのはフェアではないと思います。

川上量生 公式ブログ「ブロッキングについて」)

 

 ブロッキングの是非はさておくとして、氏は、上記のように述べつつ、その後、「もちろん、法治国家として法制化を先行するべきだという意見は、正論です」と前置きしたうえで、次のようにも述べています。

そもそも法治国家の根幹とは「法を執行できること」ではないでしょうか。

ブロッキングの根本の問題は)海外のインターネットを使って、日本の法律を適用できない場所を意図的につくる犯罪者に対して、どういう強制執行力をもてるかという問題なのです。

(括弧内の文言は筆者が追加したもの)

 

 これを「自己矛盾」と感じるのは私だけでしょうか。

 海賊版サイトに対する適法な権利行使については、法治主義の実効的側面を重視しつつ、他方で、ブロッキングのような根拠法令の存在しない超法規的措置について、国家作用の法律適合性を問題としないのはかなり疑問です。法治主義をかなり都合の良いように解釈している印象を受けざるを得ません。これこそ「ブロッキングありきの議論」ではないでしょうか。

 

民主的プロセスに解決を委ねるべきである。

 断っておきますが、海賊版サイトを野放しにしても良いとか、ブロッキングはやってはいけないとか、そういう主張ではありません。出版社などの権利団体や政府の意向を踏まえて、何れにせよ「民意を問うべき」だと思います。そうでないと、当事者であるはずのユーザー(国民)がハブられ続けることになるからです。

 

 その際、是非議論して頂きたいのは、ブロッキングの有効性もさることながら、海賊版サイト以外の違法サイトへの対応はどうするのかという点。著作権だけが特別の保護を受けるのは何故なのかという疑問を呈している森弁護士と同意見です。

news.nicovideo.jp

 

 職業柄、違法性の疑いの強いNGサイト等をリストアップしたりしますが、海外にサーバーを置いて、「どうせ摘発できっこないだろ」という態度で運営しているサイトは山ほどあります。これは著作権侵害に限らないです。わいせつ動画の配信、違法医薬品等の販売、公安委員会への届出のない事業者による出会い系サイト…等々。挙げればキリがありません。

 そんな違法サイトを目にすることが多い者の立場からすると、海賊版サイトによる被害額の大きさなどに一定の理解は示せるものの、「じゃあ、それ以外の違法サイトは?」って、どうしても思っちゃうのです。なんで、著作権侵害 “だけ” は特別扱いなの?と。

 

 そういった点を含めてテーブルに乗っけてもらって、海賊版サイトへのブロッキングの是非をとことん議論してもらいたいと思います。