箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

「荒木飛呂彦の漫画術」から学んだこと。

昨日に引き続き、今日も創作ノウハウ系の話をちょっくらと。

 

今回、読ませて頂いたのは「荒木飛呂彦の漫画術」。今日届いたばかりなんだけど、既に付箋だらけになっているのはご愛嬌ということで。

 

さてさて、本著は、長年にわたってジョジョシリーズを連載されてきた、言わずと知れた天才漫画家・荒木飛呂彦先生による漫画創作の指南書であり、相当な期待を込めて拝読させて頂いた。

 

結論から言うと、この本は、

「僕がこれまでに読んできたシナリオ創作系のノウハウ本と内容が共通している部分(普遍的なノウハウ)」と「少年漫画(ジャンプ)に特化したノウハウ」と「荒木先生が独自に築いてこられたノウハウ」の3本立てになっており、それらのノウハウが荒木先生の体験を通じて、ひとつの統一的な知識体系に仕上がっているという印象を受けた。まさに荒木先生の集大成と言うべきか。

 

例えば、荒木先生は次のように述べてストーリーの弊害を説いているんだけど、この指摘は、つい先日読んだ「シナリオ・センター式 物語のつくり方」でも触れられていた「ストーリーのパターン地獄」そのものだし、

もしも漫画でストーリーの展開ばかりを描いていったとしたら、密室推理小説のようなものになってしまうでしょう。推理小説で核となるのはトリックの謎解きや謎をめぐる頭脳戦です。出てくる人物は探偵と犯人ぐらい、しかも、どれを読んでも似たような感じになりがちです。ですから、こういうタイプの作品では、「キャラクターが動かない」という欠点が出てくるのです。

(本著103頁より)

 

キャラクターの設定がちゃんと出来ていれば、あとはそのキャラクターを困難な状況に放り込むことで勝手にキャラが動いていく…という指摘も、同著に同様の記述が見受けられる。キャラの身上調査書を作成するところなんかはまさに同じだ。

キャラクターと困難な状況のアイデア、このふたつがあれば、ストーリーを作っていくことができます。

(本著133頁より)

 

※興味がある方はこちらもどうぞ。

 

このように、シナリオ創作における鉄則というか、「ここだけは絶対に外せない」というセオリーの部分は変わらないんだなと思ったし、そういう当たり前の部分を荒木先生もちゃんと押さえられていることに驚くとともに、少年誌ならではのセオリーも散りばめられていて、多くの学びがあった。

例えば、「少年誌の場合、主人公が持つ「動機(欲望)」は、正義や友情といった読者の自然な倫理観に照らして、好ましいものでなければならない」といった指摘や、「読者に最も共感されるのは何かに立ち向かっていく「勇気」である」といった指摘がそうであり、少年漫画を読む人からすれば当然の話かもしれないけど、僕からすると、改めて文字にしてもらえるのは有り難かった。

 

そして、本著の真骨頂は、何と言っても「荒木先生独自のノウハウ」である。

決して他所では聞くことの出来ない秘伝のノウハウを知ることができる点こそ、本著を読む最大の目的であり、最大の収穫と言えるかもしれない。

 

そのすべてをここに書き記すことはもちろん出来ないが、僕が感銘を受けたのは荒木先生の漫画との向き合い方であり、荒木先生の文面からは、「どうやったら最後のページまで読んでもらえるか」「どうやったら読者の記憶に残る絵が描けるか」という強いこだわりが伝わってくる。いや、「執念」と言ったほうが正しいか。

(デビュー作である)「武装ポーカー」は、とにかく最後まで編集者にページをめくらせたい、と願いながら描いた作品です。すべてのコマを練り上げ、外せるカットはひとつもない、というくらい、ひとつひとつのカットを明確な意図を持って描いたのです。

(本著44・45ページより引用)

絵を描くときに大切にしているのは、見ている人に記憶させたい、ということです。何年か経ってその絵を見たとき、「あ、あの絵だ!」とすぐにわかる、そんな強い印象を見る人の心に刻みつけるような絵を描こう、といつも思っています。

(本著187頁より引用)

 

小手先のテクニックではなく、こういう真っ直ぐな想いを持って漫画に取り組んでいるからこそ、長年にわたって漫画界を牽引出来たんだろうと思うし、見せかけの面白さではなく、「本質」を追求しようとする姿勢が、結果として読者の心に刺さる作品の原動力になっているんだと思う。

 

***

 

ちなみに、荒木先生は本著のすべてを参考にする必要はなく、全然別の考え方でも良いと締め括っており、そういう意味でいうと、正直なところ、「それってどうなんだろう?」と疑問に感じる記載があったのも事実だ。

 

具体的に言うと、荒木先生は、ストーリーをつくっていく上で、「主人公は常にプラスでなければならない」と主張し、一度壁にぶつかって挫折・失敗したり、成功と失敗を繰り返しながら成長していくストーリーは良くないとされている。常に成長し続けるストーリーじゃないとダメだと。

しかし、過去の少年漫画を振り返った時に、主人公が一度負けてしまうストーリーはたくさんあった。例えば、湘北高校は練習試合で陵南高校に一度負けているし、ダイは大魔王バーンにコテンパンにやられている。なので、たぶんこの荒木先生の主張については、荒木先生独自のポリシーみたいなものだと考えていた方が良い。そうやって、自分なりの「漫画創作の地図」を作っていった方が良いと僕は感じた。

 

なお、本著の発売日は2015年であり、8年前の著作ということになるんだけど、ここに書かれていることは、アナログやCGといった技術的なものを除き、この先時代が移り変わろうとも決して変わることのない普遍的な漫画創作ノウハウだと思う。