箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

「シナリオ・センター式 物語のつくり方」を読んだ感想レビュー

今回はシナリオ創作に関する書籍レビューを。

 

それがこちら。

 

前回、お伝えしたとおり、シナリオに関するインプットもぼちぼちやっていきたいということで、その第1弾として「シナリオ・センター式 物語のつくり方」をお届けしていく。

 

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まず、最初にざっくりとした感想を一言でまとめると、

この本は、「小説や漫画などの物語創作に挫折した経験のある人はとりあえず全員読め」と太鼓判を押せるほどの良書だった。正直、これまでに読んできたシナリオ創作系のノウハウ本は一体何だったんだろう・・・と思うぐらい、情報の密度と整理のされ方が秀逸だと感じた。

 

シナリオ創作系の書籍の代表例として、「SAVE THE CATの法則」とか「感情から描く脚本術」など、フィルムアート社(以下「FA社」という)から出ている本が有名だけど、FA社の本はそれっぽい情報が羅列されている印象が強く、「結局その知識をどう活かしていけばいいの?」と疑問に思うことも多かった。

例えば、「物語には【対立】や【葛藤】が必要である」と説明されていたとしよう(FA社から出ている本には決まって出てくる笑)。それを読んで、「うんうん、なるほど。その通りだ」と深く頷く。その知識は確かに有用である。しかし、その知識をどのフェーズでどう活かしていけばいいのかさっぱり分からない。キャラの性格なのか、作品のテーマなのか、はたまたシーンやエピソードなのか・・・。

 

だけど、こちらの本は、そういった知識をただ羅列するのではなく、「こういう順番で、こういう風に考えていきましょう」と明確に道筋を示しており、情報過多に陥ってしまった僕の頭を良い感じに解してくれた。

 

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本著の特徴は、「ストーリーはパターン化されており、ストーリーに偏重する考え方ではパターンにハマってしまうだけなので(それでは面白くないので)、ストーリー偏重思考を捨てろ」という姿勢を一貫しているところだ。

 

この考え方自体は他所でも触れられているし、僕もそう思ってきた。ストーリー展開を追っかけても型にハマるだけなので、ちゃんとキャラを掘り下げなければならない、と。

元ジャンプ編集者の斎藤氏も、ストーリー展開を追っかけるのではなく、「キャラの人となり(読者に興味を持たせる・好きにさせる描写、何に怒り何をされたら喜ぶのかなどの価値観)を表すシーンをできるだけ入れろ」とアドバイスしている。

www.shonenjump.com

 

本著はその点について、キャラクターのアクションやリアクションが描かれた「ドラマ」を描けと表現しているが、言ってることは一緒だと思う。結局、物語というのは人間ドラマなのだ。

物語の根っこに当たる登場人物のアクションとリアクションが面白ければ、結果的に物語全体が面白くなります。

(中略)

面白い物語を書くためには、ストーリーを考えるのをやめて、意識的にドラマを描くことを考えていけばいいのです。そうすれば、自ずと面白い作品を書くことができます。これは、100%自信を持って言えます。

(本著50頁から53頁より引用)

 

ただ、そこまでは理解出来たとしても、じゃあどうやってキャラを掘り下げるのか(どうやってドラマを描くのか)、どうやって型にハマったストーリーの足枷から抜け出せるのか、一番重要な部分が分からない。感覚的にはそれが正しいと分かっていても、それを実現するための方法論が見つからなかった。

 

だけど、本著はそこに一筋の光(ヒント)を与えてくれる。

 

キャラクターの性格はこういう点を意識しながら考えてみましょう、ストーリーのパターン(型)にはまらないようにこういう風に箱書を書いていきましょう・・・といった具合に、「ストーリー偏重思考を捨てろ」という基本軸を維持したまま、そういう罠にハマらないようにするためにどうすれば良いのかがずーっと論考されている。

そのため、本著は最初から最後までブレていないし、「正しい悩み」を提示しているおかげもあってか、ゴチャゴチャだった知識が整理されて、随分と頭の中がクリアになった気がする。

 

ちなみに、僕が一番ハッとさせられたのは、シーン(ドラマ)の描き方についての指摘だ。

 

本著は、物語の設定や構成を考えるフェーズは「論理的思考(ロジック)」を必要とするが、シーン(キャラクターのアクション・リアクションを見せるドラマ)を考えるフェーズではクリエイティビティ、すなわち「映像思考(イメージ)」が必要だと指摘している。

僕も全く同じことを考えていたし、キャラを掘り下げるパートこそがもっとも作家性(オリジナリティ)が現れる部分である・・・という僕の考え方とも一致する。そのうえで、物語を「書く」という作業をしてしまうと左脳的な論理思考に引っ張られてしまうので、映像思考を大事にしろと強調する。本著はその点について「シーンは右脳から飛び出す」と表現している。

 

これはまさにその通りだなと思う。僕は以前からビジュアルイメージを優先させたいと考えており、だからこそ余計に本著の指摘が胸に刺さった。新たな問題点に気付かされたというよりは、自分の感じていた方向性は正しかったと確認できたというか、一番大事なのは映像(ビジュアル)なんだなと再確認出来たことは非常に大きかったと思う。

 

本著の内容についての感想はそんな感じだろうか。

 

本著は、キャラクターのセリフを「説明という宿命を背負っている」と指摘するなど、僕の感覚と被っている部分も多く、うんうんと頷きながら読み進めることが出来たし、だからこそスーッと頭に入ってきたんだと思う。新たな発見もあったし、何より、これまでの知識を整理し、物語を考えるうえでのフレーム(創作の地図)を手に入れたことが大きかった。

この考え方をベースにすれば、過去に会得した知識(例えば、さそう先生の「マンガ脚本概論」など)についても、こういうフェーズで活かせるな・・・という道筋を立てられると思う。

 

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というわけで、書籍レビューは以上です。

 

本著は、シナリオ創作の初心者が一番最初に読む本というよりは、何度か自分で作品を書いてみたものの、上手くいかずに失敗してしまった人(途中で挫折してしまった人)が読むべき本という感じがする。あるいは、シナリオ創作系の本を読み漁り、情報過多状態に陥って、頭の中がゴチャゴチャになっている人向け・・・かな。

 

とりあえず、FA社から出ている本よりも数百倍読みやすいです。オススメ。