箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

Breaking Downが面白い理由をウダウダと考えてみた。

格闘家の朝倉未来さんが主催している「Breaking Down」という格闘技イベントが盛り上がりを見せていて、普段格闘技を見ない僕でもYoutubeの関連動画を漁ってしまうぐらいには面白い。

ただ、本当の格闘技ファンが見たら、怒るというか悲しんでしまうのではないかという一抹の不安があるのも事実だ。と言うのも、Breaking Downで行われていることは、「オーディション」と言いつつ「ヤンキー同士の罵り合い」であり、「試合」と言いつつ「1分間のケンカ」でしかないからだ。

 

…何というか、真剣に心技体を磨き上げてきたプロの格闘家が、試合前に自分を奮い立たせ、本番の試合が面白くなるようにと興行的なことを考えて対戦相手を挑発するのとは訳が違う。Breaking Downでは、「有名になりたい」「目立ちたい」という下心を持っているヤンキーが、インフルエンサーに絡んでいくのをショーとして見せているだけだからだ。

1分ルールで行われる本番の試合については、戦略もへったくれもない。ラッキーパンチを狙って大振りで殴りかかる試合ばかりが目立ち、カウンターを狙うとか、緩急をつけて攻撃を散らすとか、ボディーやローキックで相手の体力をじわじわ奪う…ということもない。逆に言えば、1分ルールの下では体力・スタミナを必要としないので、年齢を問わず参加しやすいというメリットはあるかもしれないが、基本的には何も考えずにイノシシみたいに突進していくばかりで、「これは格闘技か?」と自問自答せずにはいられない。たぶん違うんだろうなと思う。

 

・・・ただ、ひとつだけ断っておこう。だからこそBreaking Downは面白い、と。

 

いつだったか、岡田斗司夫さんは「笑いとは攻撃性の裏返しだ」と言った。

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僕は正鵠を得た指摘だと確信している。

「他人を傷つけない笑いもあるじゃないか」と大真面目に反論する人もいるかもしれないが、攻撃性を伴わない笑いなど存在しない。仮に他人を傷つけなかったとしても、そういう場合は自分を傷つけて笑いを取っている。いわゆる「自虐ネタ」というやつだ。

 

要するにコレである。

僕たち人間は "誰かが誰かを攻撃しているのが面白くて仕方ない"のだ。

 

前回だったか、前々回だったか、「こめお」という選手が初めて登場した回があった。

こめお選手は、自分が川越少年院の出身であり、タレントの後藤祐樹さんと少年院時代に同期だったことをオーディションで打ち明けた。出演者との因縁エピソードを持っているなど、キャラとしても申し分ない。そこに瓜田純士さんが割って入る。「川越って言えばエリートじゃねえか」と。この面白いキャラにアシストパスを出そうとしたわけだ。

しかし、これに対してこめお選手は「だから何だよ」と食って掛かる。別に瓜田さんはケンカを売ったわけではないが、なぜかこめお選手のスイッチが入ってしまい、ケンカへと発展していった。こめお選手の目はバッキバキに決まっている。

 

僕は何故かこのシーンが好きだ。何とか爪痕を残そうとして必死にひな壇からMCに絡んでいく若手のお笑い芸人のように見えるからだ。ギャグも滑っているし、タイミングや間も悪い。でも、何故か愛おしい。

そう。Breaking Downは、「売れたい」「爪痕を残したい」と躍起になっている若手のお笑い芸人が、笑いを生み出すために他の出演者に絡んでいって(攻撃していって)、見事にスベる…というお笑いバラエティー番組のひな壇と構造が同じなのだ。完成されたネタを披露する舞台ではなく、その場のアドリブで雑に絡む…という構造もそうだし、1分間のネタ見せで客を笑わせろという無茶振りもそうだ。

 

Breaking Downは、若手のお笑い芸人が出演するバラエティー番組と何も変わらないし、だからこそ面白いのだ。