箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

デフォルメ絵の漫画に未来はあるのか

イラスト・漫画界隈では「デフォルメ絵は下手」と言われることが多い。

実際本当に下手か?と言われれば、別にそんなことはなく、デフォルメ絵も技術的・デザイン的なことを言えば難しい要素がたくさんあるし、それが証拠に「デッサンは出来るけどもデフォルメは出来ない」という人も多い。

 

しかし、残念ながら、自分で絵を描かない一般読者はそんなこと知らないし、そういった一般的な感性を基準にすると、どうしても現実世界に存在する人・物に近しい表現をしているリアル絵の方が「上手い」という感想になってしまう。これは例えて言うのであれば、独創的な絵を描くゴッホよりも、写実的な絵を描くレオナルド・ダ・ヴィンチの方が上手いと言ってるのと同じである。

 

そして、絵・イラストに関する無料ノウハウが流通した結果、漫画イラスト界隈におけるデッサン力は底上げされ、一昔前に比べて上手なリアル絵を描ける人が急増し、漫画イラスト市場からデフォルメ絵はほぼ駆逐されてしまった。

例えば、漫画でも、イラストでも、アニメでも、ゲームのキャラクターデザインでも何でも良いのだが、現実にはあり得ないような2〜3等身のちびキャラとか、鳥山先生のような絵柄のキャラクターが出てくる作品はほぼ見つからないことが分かる。もちろん、尾田栄一郎先生といったデフォルメ絵柄作家も居るには居るが、あくまでも例外である。

要するに、デフォルメ絵の需要がないし、読者のニーズに合ったリアル絵を描ける人も増えたし、そういった作家を出版社・クライアント側も多く起用するので、需給バランスの偏りからデフォルメ絵の作品は淘汰されてしまった…と解釈するのが正解だろう(繰り返しになるが、デフォルメ絵の作品が全く無いわけではない)。

 

このような現象・風潮に対して、個人的に言いたいことはある。

そもそも、リアリティを追求した先にあるものは、個性の並列化・同質化であり、申し訳ないが今バズっている新人作家の作品を読んでも上手いと思えど絵の個性があるように思えない。辛辣な言い方をすれば、どれもこれも同じに見えてしまう。それも当然の話で、現実世界に存在する人・物を正確に再現しようとすれば、皆行き着く "答え" は同じであり、その結果、市場には同じようなリアル絵が並ぶことになる。腕や足を細い棒のように表現したり、現実にはあり得ないような形の目を描いたり、「ガビーン」といったオノマトペを付けたりすることは「リアルではない」という理由から排斥され、独創的な絵はほぼ生まれない環境になってしまった。僕は、そんなにリアリティを重視するなら、写真や映像で良いじゃないかと思ってしまうが、いずれにせよデフォルメは全く重視されない。

 

しかし、文句を言ったところで世の中の大勢が変わるわけでもなく、商業的に売れる作家になりたいのであれば、デフォルメ成分100%の絵を描くことは大悪手以外の何物でもないと肝に銘じる必要がある。TwitterやPixivなどのSNSでも、デフォルメ全開の絵がバズることは絶対に無いと言い切れる。

つまり、デフォルメ成分の多い絵を描く人は、「リアル40%、デフォルメ60%」というように、ある程度リアル成分を含めないと商業的な成功はない(趣味で描くのなら関係ないが)。

 

じゃあ、どこまでデフォルメで描いても許されるのか、あるいはどこからが許されないのか…という点についてだが、近年の漫画・イラスト作品の傾向から紐解いてみるに「目の大きさ、等身、体型は(過度に)デフォルメするな」という一言に尽きる。たぶん、このルールを破ったら全くウケない(体験済み)。

可愛らしいアニメ絵なら、今でも大きな目のイラストはあるっちゃあるし、スパイファミリーのアーニャなんかはとても大きな瞳をしているので、そういう絵がすべてダメなわけではない。ただし、それはコメディ漫画に出てくる年齢の幼い子どもキャラだから許されているだけであり、すべてのキャラを大きな目で描いたらおそらく「オタク向け」といった印象になると思う。等身も然り。子どもキャラを除き、ギリギリ許されるのは6等身ぐらいまでで、それ以上低い等身にしてしまうと途端に読者ウケは悪くなる。また、体型についても、極端に細い体型とか、ちびキャラにありがちな手足を小さく描いたりすると、現実感が薄れてしまい敬遠される確率が上がる。

 

ちなみに、一つだけ余談だが、デフォルメ成分の多い絵柄の人が、デフォルメ成分を中和する方法として、背景をめちゃくちゃリアルに描くという方法がある。キャラクターはデフォルメで描かれているんだけど、背景がリアルに描写されているおかげで、全体的にリアルに見えるのだ。

代表的なところで言うと、浅野いにお先生なんかはこのタイプの漫画家だと思っていて、浅野先生の作品はデフォルメされたデザインのキャラクターもところどころ出てくるのに、背景がめちゃくちゃリアルに作画されているおかげで、リアリティーを感じる作品に仕上がっている。また、最近の作家さんで言えば、「タコピーの原罪」が話題になったタイザン5先生もこのタイプの先生であり、背景がしっかり描き込まれているおかげでキャラクターがデフォルメで描かれているのにとてもリアリティーを感じる。また、個人的に好きなのは、山本和音先生の「生き残った6人によると」だ。キャラは可愛らしいデフォルメの絵柄なのだが、背景がとても緻密に描かれており、作品のジャンルと相俟ってとても迫力を感じる。

comic-walker.com