箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

商業主義に染まる少年誌についてあれこれ書いていく。

近年の少年誌ではほとんど見ることが無くなったジャンルの一つとして「SF」がある。

 

もちろん、少年誌でSF作品が全く連載されていないわけではないが、ロボットアニメのように人気が下降しているのは紛れもない事実であり、好んでSFを描く作家もめっきりと少なくなった。「タイムリープもの」とか「パラレルワールド」といった分かりやすいSF設定ならともかく、完全オリジナルSFはほぼ絶滅危惧種と言っていい。

そのようにしてSFが絶滅の一途をたどる一方で、学園ラブコメのような分かりやすいジャンルは未だに人気があり、発行部数の減少に歯止めが掛からない少年誌は、学園ラブコメばかりをラインナップに並べるようになった。この傾向はおそらく止まらないだろうし、SFのようなマイナージャンルを読む読者は一部のコアなファンだけになっていくだろう。そして、そのようなコアな読者は少年誌からどんどん離れていき、ますます少年誌は大衆向けエンタメ作品が並ぶようになる。

 

僕はこのような現状に鑑み、商業主義に順応することの出来ない個性派漫画家は少年誌を目指すべきではないと考えている。

個性的な作品が多いジャンプですら、最近は商業感が強くなってきており、冨樫先生のような一部の例外を除き、ベテラン作家でさえオリジナルSF・オリジナルファンタジーを描くことは無くなった。岸本先生の「サムライ8」がコケてしまったことも大きな原因になっていると思うが、作者のオリジナル世界観を表現した個性的な作品よりも、誰でも内容を理解できる大衆的なエンタメ作品が重視されているのは、少年誌全体に共通して言えることだと思う。

(ただし、藤本タツキ先生ぐらい個性が尖っていれば、好きなように描けるんだろうけどね)

 

じゃあ、決して王道とは言えない個性的な作品を描く作家はどこに居場所を求めれば良いのかと言うと、逆説的に言えば、大手少年誌以外のマイナー誌ということになる。

 

例えば、山本和音先生のケースが分かりやすい。

 

山本先生は、2007年に赤マルジャンプで読み切り掲載デビューを果たした漫画家であり、長らく少年誌を中心にして漫画家活動を続けて来られたが、少年誌での連載経験は一度もなく、2016年にハルタに移籍して執筆された「星明りグラフィクス」が山本先生にとって初めての連載作品となった。つまり、山本先生は少年誌でチャンスを貰えなかった作家の1人である。

しかし、ひとつ断っておくと、山本先生の作品が決して面白くなかったわけではない。むしろその逆であり、山本先生がこれまでに執筆されてきた読み切り漫画を収録した作品集「夏を知らない子供たち」を読めば、その才能の片鱗を窺い知ることができる。

 

キャラクターの瑞々しさ、緻密に描き込まれた背景、何とも言えない読後感、思わずハッとさせられるストーリー展開、作品の随所に見られる内なるテーマ性・・・等々、それらの要素が山本先生の美しい感性と相俟って、宝石箱の中から飛び出してきたかのような輝きを放っている。これはそんな作品集だ。

この作品集を読めば、おそらく多くの人が「なぜこれだけ才能のある漫画家が少年誌で連載出来なかったのだろう」と首を傾げることだろう。僕はそれぐらい素晴らしい内容だと思う。ちなみに、これがきっかけで僕は山本先生の大ファンになった。

 

その一方で、山本先生が少年誌で連載出来なかった理由も何となく分かる気がしている。

 

・・・と言うのも、山本先生の作品にはSF要素が含まれていることが多く、そこで描かれているテーマも「若い男女の甘酸っぱい恋愛」というような分かりやすいものではない。絵柄もデフォルメが強いため、まさに「読む人を選ぶ作品」という位置づけになってしまうのだ。

だから、何となく心にジーンと響くものはあるんだけど、分かりやすいエンタメ作品ではないので、「結局、何が言いたいの?」という感想になりがちだし、手っ取り早く感動を求めている少年誌の若い読者とは相性が良いとは言えない。作者の感性が読者とマッチしていれば何の問題も無いんだけど、山本先生のテーマ選びや世界観が独特なので、どうしても色物として見られてしまっている節がある。言い換えるなら「商業的」ではないのだ。

 

個性派作家である山本先生が、少年誌で悪戦苦闘していたであろうことは、ご経歴を拝見していれば何となく分かる。

山本先生は、2007年に「100ドルは安すぎる」でデビューし、2011年に「恋と夜をかけろ」でマガジングランプリ佳作を受賞するまでの4年間にわたって、何ら作品が発表されていない上に、あまり編集者との相性が良くなかったのか、ジャンプからマガジンへ移籍されている。マガジンに移籍されてからも、執筆されたのは「プランビー」と「怪獣警報」の2作品だけであり、少年誌で描かれたのはデビュー作を合わせてこの4作品だけだ。いかに少年誌が山本先生を冷遇していたかが分かる。

 

ところが・・・である。

2015年にハルタに移籍されてからは、「太陽からの手紙」でえんため大賞コミックグランプリを受賞し、2016年に「星明かりグラフィクス」で初連載を果たしたほか、それ以外にも計10本の読み切り漫画を執筆されるなど、その活躍は目覚ましいものがある。ちなみに、現在は「生き残った6人によると」を連載中だ。

 

もちろん、ここで僕が言っていることは、少年誌に合わなかった個性派作家全員が他誌でも通用するということではないし、たまたまハルタ編集者と山本先生の相性が良かっただけの可能性もある。ということは、当然その逆のパターンもあるはずで、商業主義を全面に出した作品の方が実は合っていた…という人も居るかもしれない。

しかし、作品の個性という点で言うなら、もはやそのトップランナーはジャンプではないと僕は感じており、SFのようなマイナージャンルや作家独自の世界観を描いた個性的な作品はマイナー誌に集約され、読者の棲み分け・細分化が進んでいくだろうと思っている。かつて、そういう作品もジャンプのお家芸だったんだけど、残念ながら少年誌では売れないのだから仕方ない。