箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

自分の描きたい絵から逆算して作風を考えてみる。

前回の記事の続き。

 

 

前回の情報を整理したうえで、僕が描きたい絵をまとめると、

  • デザイン:キャラの造形がある程度記号化されていること。
  • 描き方:パキッとした線で描かれたコントラストを感じられる絵であること。
  • 雰囲気:「スタイリッシュでカッコいい」「心がホッコリする(優しい・柔らかい)」

 

・・・こういう感じかなぁと思う。

 

つまり、この描き方に合っているジャンルとか、読者のニーズに合う作風を逆算して考えていけば、自分に合ったものが見つかるかもしれない・・・ということになる。

 

ハイファンタジーが難しい理由

僕は、今回の作品において、いわゆる「ハイファンタジー」というジャンルに挑戦した。

 

漫画業界では、よく「ハイファンタジーは売れ線ではないのでやめた方が良い」と言われることが多いんだけど、その理由として、「作者が自分で考えたオリジナル設定が出てくるため、初見の読者には分かりづらい」と言われたりする。もちろん、それも理由としてはあると思うけど、個人的には「世界感や雰囲気を楽しんでください」という作風になりがちなのが理由として大きいと考えている。

 

例えば、ハルタで連載中の樫木先生の「ハクメイとミコチ」は、身長9センチメートルの小人のお話であり、森の中で暮らす小人たちの日常風景が1話完結型で描かれていく。

 

僕は、樫木先生の絵柄が好きだし、緻密に描かれた背景や雰囲気も大好きなんだけど、何か凄いことが起こるかというと決してそうではなく、エンタメ性という点でどうしても目劣りすると感じる。あくまでも、樫木先生独自の世界感を楽しむ漫画なのだ。

実際、Amazonのレビューを見ていると、「ストーリーが面白いとかそういう作品ではない」という意見も見受けられ、「小人たちの日常生活が見ていてホッコリする(食事シーンが良い、背景が見ていて飽きない・・・等々)」という感想が多い。

 

つまり、樫木先生ぐらい世界感を作り込めるのであれば、「こんな世界に住んでみたい」と読者にも共感してもらえるんだけど、そうじゃなければ途端に退屈になってしまう。多くの漫画において、「バトル」「コメディ」「恋愛」「エロ」といったエンタメ要素を付け加えようとするのはそれが理由である。ほとんどの読者は「世界感」を面白いと思わないし、読者を惹き付ける「世界感」を描ける人もそんなに多くはない。

 

だったら、大衆ウケする「バトル」「コメディ」「恋愛」「エロ」を描いた方が良いし、敢えて分かりづらいファンタジーを選ぶ必要もない・・・ということになる。これがハイファンタジーが流行らない理由である。

要するに、ハイファンタジーは読者を満足させられるだけの「世界感」を持っている人にしか描けないし、そうじゃない人は描かない方が良い。まあ、だからこそ、ハイファンタジーを作り続けてきた宮崎駿先生は天才と言われるわけだけども(誰にも真似出来ないので)。

 

ショッピングモール or 田舎の個人店

じゃあ、僕はどうだったのかと言うと、樫木先生のように世界感を見せるというより、ある程度エンタメ性のあるものを描こうという方針だったので、絵柄や演出も樫木先生とは真逆の少年漫画チックなものだった。

 

しかし、あとから冷静に考えてみれば、これがチグハグだったような気がしていて、ハイファンタジーを求めている人(世界感を求めている人)からすると、エンタメ感が強すぎるし、逆に、少年漫画のようなエンタメ感を求めている人からすると、バトルやコメディ要素が弱すぎるし、どちらの読者層からもウケないという中途半端な作品になってしまった感じがする。

 

何と言うか、「彩り豊かなヘルシーサラダ」と「にんにくマシマシの二郎系ラーメン」を同時に出されたような感じかもしれない。どっちかに絞れよ、と。なので、「ホッコリとした作品」にしたかったのであれば、少年漫画っぽい演出は無しにして、樫木先生のように優しい絵を貫くべきだったし、「爽快感・エンタメ感のある作品」にしたかったのであれば、別にハイファンタジーにこだわる理由もなく、もっとコメディやアクションシーンを多く描いても良かった。

 

つまり、今の僕に求められているのは、中途半端な状態を解消して、どっちを描くのかを決めろ・・・ということになると思う。

これは言い換えるのであれば、有名店が軒を連ねる大型ショッピングモールに大衆店を出店する(大手少年誌のようなエンタメ作品を目指す)のか、それとも、田舎でひっそりとマイナーな個人店を開く(世界感を重視したニッチな作風を目指す)のか・・・という分岐点ともいえる。

 

そもそも何故中途半端な作品になったのか

ここで、実はさっきの「描きたい絵」の話に戻る。僕はどうしても作品の中に何らかの「カッコよさ」を入れたいと思ってしまって、それゆえに、SFやファンタジーにこだわってきた。

最初に描いた作品は能力バトル漫画だったし、その次に描いたのはハードボイルドなSF漫画だった。3作目もバトル要素のあるファンタジー漫画であり、この3作目については、新人賞で入賞させてもらった作品である(掲載無し)。なので、全く見込みが無いわけでもないと自分では思っている。

 

しかし、その後は全くネームが通らない日々が続いた。

 

そんなある日のこと。とある作品のネームを描いて担当編集に送ったら、結構ボロクソに批判されて、企画自体もボツになったのだが、唯一ギャグシーンだけは面白かったらしく、「ギャグはめちゃくちゃ面白かったので、コメディ漫画を描いてみてはどうか」と提案されたのだ。しかし、その時の僕は全くピンと来ておらず、結局その話も有耶無耶になって、その編集者と連絡を取ることもなくなった。

 

それからは、さらに迷走の日々が続く。何を描けばいいのか全く分からず、ちょっと不思議な雰囲気のショート漫画を描いてみたり、よく分からないラブコメ(未完)を描いてみたり、相変わらず難解なSF漫画(ネーム途中で挫折)を描いてみたり、マフィアを主人公にした家族ドラマ(原稿途中で挫折)を描いてみたり、謎のボーイミーツガール漫画(原稿途中で挫折)を描いてみたりしたが、どれもこれも散々な結果だった。

(唯一、ラブコメだけは持ち込み先の編集者から「絵柄が魅力的」と言われたが、ポジ要素は本当にそれしかなく、賞に応募しようと思っていた作品は妻から「面白くない」と言われるなど、ボロボロだった)

 

その後、長きにわたって、自分の作品を見つめ直す期間へと突入し、やっと「描きたい」という気持ちになったのは、昨年の11月頃の話である。その時も、やっぱり描きたかったのはファンタジーであり、最初はめちゃくちゃ鬱展開・グロ要素のあるものを描こうとしていたが、その話はいったん白紙にして、もっと柔らかくて優しい話にしたら上手くまとまった・・・という感じになる。

 

つまり、何と言うか、めっちゃグロい少年バトル漫画を描こうとしたら、あんまり上手くいかなかったので、ハイファンタジーっぽい要素とかコメディ要素を取り入れたら、なんとか作品としてまとまりましたーって感じなのだ。これが中途半端な作品になってしまったそもそもの理由である。

 

僕が描くべきジャンルとは

ここまで色々と失敗を重ねてきて、ようやくかつての担当編集の言葉が身に沁みるようになってきた。「コメディを描くべきだ」と。

 

まず、純粋なSF漫画やバトル漫画を描くのは、僕には合っていないと感じる。上手くいった試しがない。そもそも、そのジャンルはめちゃくちゃ高い画力が求められるが、僕は画力タイプではないし、もっと言うなら「大真面目な話」を作るのが下手なんだと思う。バトルに限らず、恋愛とかもそうなんだけど、大真面目な話をしたいのであれば、それなりにリアリティを追求する必要があるんだけど、僕の目指している絵柄的にどうしても説得力が足りなくなってしまう。毎回チグハグ感を感じるのはそれも原因だと思う。

 

また、ハイファンタジーについては、今回の作品において、こういう方向性もアリだなと思える部分もあったけど、樫木先生のように確たる世界感があるわけでもなければ、それを描き続ける覚悟もないし、面白いネタやアイデアがあるわけでもない。現時点では、「よし!俺はハイファンタジー作家になるぞ!」とは思えない。

(というか、そういう素質のある人は最初からハイファンタジーを描いてると思う)

 

そして、今回コメディ要素を付け加えたことによって、圧倒的に「描きやすい」と感じた。僕はこれまで、「カッコいいポーズ」とか「あっと驚くアクション」とかで作品を面白くしようと考えており、僕の作品のエンタメ性はそこにあると思っていたけど、たぶん絵柄的に言ってもコメディの方が合っている。

というか、キャラを記号化して描きたいと言ってる時点でコメディ向けだし、僕が好きな絵柄の作家さんを冷静に見てみると、一部の作家さんを除いて、大体コメディである(真面目なストーリーを描いてないという意味ではないよ)。

 

目標にすべき作品

まあ、ということは、僕が目指したいのは「コメディ要素がありつつ、最終的に心がホッコリとする作品(バトル漫画以外)」であり、作品の中になんらかの「カッコいい」と思える要素があるもの・・・ということだろうか。

 

そうなると、少年漫画だと遠藤先生の「スパイファミリー」とか、空知先生の「銀魂」が内容としては近いと思われる。

 

コメディを描くからといって、うすた先生の作品や宮崎先生の「僕とロボコ」のようなところまでギャグに振り切ってしまうと、それは「ギャグ漫画」になってしまう。そうではなく、あくまでも基本路線は「コメディ」と言えるものでなければならない。

また、バトル要素もあくまでオマケでなければならず、例えば、堀越先生のヒロアカとか、松本先生の怪獣8号までいってしまうと、それは「バトル漫画」になってしまうのでそれも違う。

 

また、描き方としては、武井宏之先生の「シャーマンキング」の初期の頃とか、羽海野チカ先生とか、岩原裕二先生とか、ああいうパキッとした描き方が好きで、頭身バランスとか、絵の雰囲気的に言えば、副島成記先生や新井すみこ先生の絵が理想だったりする。上手くイメージがまとまってないけど。

 

むすびに

「描きたい絵」から逆算していくと、考え方が整理されて、少し頭がスッキリしたような気がする。完全に描きたいものが固まったわけではないんだけど、少なくとも次回作に向けてのおおよその方向性みたいなものは分かった。

 

僕は、大手少年誌の売れ線みたいなものに染まるのが嫌で、意識的にそこを避けてきたけど、最初から「自分は大衆ウケしない」と決めつけて、ニッチな作風に走るのではなく、大衆的なエンタメ作品にひとまず挑戦しようと決意した。それを描いてから、また今後の方向性を考えればいい。とにかく今は可能性を狭めるべきじゃない。