箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

漫画を描くデバイスとしてiPad Proはオススメなのか?

本日は「漫画作業環境としてiPad Proってどうなの?」っていう論点を僕なりに深堀っていきたい。

 

これからデジタルで漫画を描こうと思っていて、デバイス選びに悩んでいる方】がいらっしゃたら、是非ご参考までに。

 

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まず、最初に僕の結論を申し上げておくと、、

 

デジタルで漫画を描きたいんだったら、4K解像度の液タブ(もしくは板タブ)を買って、それを動かせるスペックのパソコンを買おう

 

・・・というのが本当の意味でのオススメになる。

 

僕は、iPad Pro 12.9インチ(2018年モデル)を使っていたこともあるし、FHD解像度の液タブ(Wacom Cintiq 16)を使っていたこともあるけど、これらのデバイスでは色々と不満を感じることが多かったため、最終的に4K液タブ(Wacom Cintiq Pro 24)にたどり着いた。

 

 

デジタル漫画を描く上で、これが最適解だと今は考えている。

 

なので、財力のある社会人の友人が僕のところにフラッと遊びに来て、「デジタルで漫画描きたいんやけど、どんなデバイスを選んだらええんや?」と聞いてきたら、たぶんそう答えると思う。

 

・・・しかし、これはあくまでも「財力があれば」という条件付きである。

 

4K液タブはメーカーにもよるけど、Amazonで調べてみたところ、おそらく一番安いのは、XPPenの15.6インチ液タブであり、これでも10万6200円(2024年4月4日時点)もする。

 

それを動かせるパソコンとなってくると、今売りに出されているMacだったら、最低でもメモリ16GB以上のM1 Mac miniぐらいは用意する必要があるので、パソコンも10万円近くする。ザッと調べた感じだと、中古品で7〜8万円といったところだろうか。

 

そこに加えて、モニター、キーボード、マウスといった周辺機器を買い揃える必要があり、適当に1万円以下のFHDモニターとか、2〜3000円のキーボード・マウスを選んだとしても、合計で20万円ぐらいが下限になってくると思う。

 

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ただし、これはあくまでも最低ラインであり、もっと快適な作業環境を求めて、スペックの高い液タブやパソコンを選ぶなら、一気に値段が跳ね上がる。

 

例えば、Wacom Cintiq Pro 24だと、現在は32万円(2024年4月4日時点)もする。

(ちなみに、僕が購入した2年前は、確か20万円台の前半だったと思うので、何とこの2年間で10万円も値上がりしている。物価高や円安の影響だろうけど、あまりにも高すぎる・・・)

 

Cintiq Pro 16も20万円ぐらいするし、Wacom以外のメーカーを選択肢を入れたとしても、それなりのスペックの4K液タブを買おうと思ったら、20万円前後ぐらいは見ておいた方が良い。

 

さらに、それを快適に動かせるPCとなってくると、MacならM2 Pro Mac miniレベルのものを選ぶ必要があるので、最低でも20万円ぐらいは用意する必要がある。

そこに加えて、パソコン用に7〜8万円ぐらいの4Kモニターを買って、キーボードやマウスもそれぞれ1万円ぐらいするような良いやつを買い揃えていくと、合計で50万円ぐらいは余裕でかかる。

 

①液タブ 20万円

②パソコン 20万円

③モニター 7〜8万円

④キーボード・マウス 各1万円

→ 合計 約50万円

 

おそらくプロのクリエイターを目指している人だったら、それぐらいの金額を投資しろと割と本気で言われると思う。

 

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・・・ただ、お金のない学生さんが、50万円を捻出できるかと言ったら、よっぽどの富豪でもない限り無理である。

 

アルバイトをしまくれば、50万円ぐらい貯められると思うし、その貯めた資金で買えば良いんだけど、個人的には、学生の頃の大切な時間をアルバイトに費やしてほしくないし、できることなら借金もして欲しくない。

 

それだったら「とりあえずiPad Proから始めたらどう?」と僕は提案したい。

 

 

なぜなら、iPad Proの中古品ならそこまで高くないにもかかわらず、十分にハイスペックだし、漫画やイラストも全然普通に描けるからである。

 

現在、M2チップを搭載している12.9インチiPad Proが17万円もするらしいが、そんな最新のものを買う必要はなく、2018年モデル(第3世代)のiPad Pro 12.9インチなら、中古で7〜8万円で手に入る。

 

「え?6年前のモデルなんて、さすがにもう古いでしょ?」

 

・・・と思うかもしれないが、iPad Proの歴史において、2018年モデルは「名機」と言われており、僕もこのモデルを使っていたけど、ProcreateやCLIP STUDIOといったイラストアプリも何の問題もなく動くし、未だにこの機種を現役で使っているクリエイターさんもたくさんいる。それぐらい素晴らしいデバイスなのだ。

 

もし、Appleのサポート切れが気になると言うのであれば、2020年モデルのiPad Pro 12.9インチの中古品が10万円程度で手に入るし、M1チップを搭載した2021年モデルのiPad Pro 11インチの中古品も同じような相場なので、ここらへんを狙うと良いかもしれない。

(ちなみに、僕は2021年モデルのiPad Pro 11インチの整備済製品を10万円ぐらいで購入した。もしチャンスがあるなら整備済製品を狙うのもアリだと思う)

 

なので、最新モデルや新品にこだわらないのであれば、iPad Proの中古品が7〜10万円で手に入る。4K液タブ+パソコンなら、最低でも20万円ぐらいかかってしまうので、なんとその半額以下の予算で、漫画制作環境を用意することが出来ちゃうというわけだ。

 

あと、僕がiPad Proから始めた方が良いと思う理由はもうひとつあって、もし仮に漫画を描くことに飽きたとしても、iPad Proなら他にも使い道があるため、投資が無駄にならないからだ。

例えば、勉強にも使えるし、ゲームとか、動画編集とか、デザインとか、漫画以外のクリエイティブ用途にも使える。これはiPad Proにしかない魅力だと思う。

 

しかし、液タブは絵を描くこと以外にほぼ使い道がなく、もし途中で飽きてしまったら、デスクを占拠するだけの粗大ごみになってしまう。iPad Proと違って、価格が高いくせに用途が限られてしまうのだ。

 

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さらに言ってしまうと、おそらくほとんどの人がiPad Proで満足できると思う。

 

例えば、SNSに投稿するようなちょっとしたエッセイ漫画であれば、下位モデルであるiPad Airや無印iPadでも問題なく描けるし、イラストについても、A4キャンバスにレイヤーを10〜20個程度重ねたイラストとかだったら、たぶん不満を感じることは無いはずである。

 

僕も2018年モデルのiPad Pro 12.9インチを使って絵を描いていた頃は、スペック不足を感じたことはほとんどないし、アプリが処理落ちするとか、マシンパワー不足を感じたこともない。PUBGモバイルのような重いゲームでもサクサク動いていたし、たぶん今使っても同じような感想を抱くと思う。

(ちなみに、妻が2018年モデルのiPad Pro 11インチを使っているけど、不満を聞いたことは一度もない)

 

なので、デジタルで漫画を描いてみたいと思っているなら、ひとまずiPad Proを使ってみて、どんなことができるのかを自分なりに試していくのが良いと思う。たぶん、それで満足できる人が大半である。

 

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ただし、ここから先は、iPad Proを選ぶ人への注意喚起というか、僕がなぜ「4K液タブ+パソコン」をオススメしているのかを説明したい。

 

まず、iPad Proがどんなに良いデバイスだったとしても、マシンスペックには限界があるということを念頭に置いておく必要がある。

 

例えば、僕が使っているM1 iPad Pro 11インチは、ストレージ容量が128GBなので、メモリRAMが8GBしかなく、本格的な漫画を描こうと思ったら、明らかにメモリが足りない。

商業誌の募集要項を見てもらったら分かるとおり、デジタルの漫画原稿用紙は、600dpiという高解像度のキャンバスを使用するため、どうしても動作が重くなりがちであり、iPad Proの性能では追いつかなくなる。

 

あくまでも参考程度の話だけど、Procreateで「幅514mm、高さ364mm、600dpi」のキャンバス(商業原稿用紙の見開きサイズ)を作ると、なんと最大レイヤー数はたったの「6」しかない。M1チップ&8GBメモリだと、ここまでしかレイヤーを作れないのだ。

 

 

まあ要するに、本格的な商業漫画を描くというのは、めちゃくちゃ負荷のかかる激重作業であり、相当なマシンスペックが要求されるということである。

 

当たり前だが、6個のレイヤーだけで漫画が描けるわけがなく、コマ枠、セリフ、効果線、トーンなどのレイヤーを追加していくと、1ページにつき、普通に50個ぐらいのレイヤー構成になることもある。

そうすると、段々とペンの挙動や動作が遅くなり、最悪の場合はアプリが落ちてしまう。僕は、液タブで描いている漫画原稿をiPad Proにも同期させて、iPad Proのクリスタで操作することもあるんだけど、「メモリの使用量が増えています」というポップアップ警告が頻繁に出てくる。

 

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途中でアプリが落ちるのが恐ろしいため、iPad Proで本格的な原稿作業なんて絶対にできない。

 

ちなみに、最新のM2チップを搭載したiPad Proのストレージ1TB以上のモデルを選べば、メモリRAMが16GBに増設されるので、それなら僕が今使っているM2 Mac mini(メモリ16GB)と同等のマシンスペックということになり、何とか出来そうな気もするが、M2 iPad Pro 12.9インチの1TBモデルは約28万円である。

www.apple.com

 

それなら絶対に液タブとパソコンを買った方が良い。

(そう考えると、iPad Pro 12.9インチの1TBモデルなんて、一体誰向けに作られたんだろうと思う)

 

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また、ディスプレイサイズも最大で12.9インチしかない。これも痒いところに手が届かない部分のひとつである。

 

もちろん、12.9インチのディスプレイで満足できる人や、逆に12.9インチが好きだという人も居ると思うが、本格的に描こうと思えば思うほど、12.9インチでは足りなくなってくる。

 

例えば、クリスタで漫画を描く場合、常にツールパレットを出しながら作業をすることになるし、複数ページ管理フォルダを表示させていることが多いので、画面の大半をそういうツール系のメニューが占めることになる。

 

つまり、12.9インチの画面全てを使って漫画を描くわけではなく、実際に絵が描けるキャンバス領域は「赤線で囲ったところだけ」である。

 

実際、僕はiPad Pro 12.9インチで絵を描いていたものの、もっと広い作業スペースが欲しくなって、液タブ(Wacom Cintiq 16)に乗り換えたぐらいだ。ここらへんは、好みによりけりだが、13インチ程度のディスプレイで絵を描くのはストレスに繋がる可能性があることを念頭に置いといた方が良い。

 

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そして、もうひとつ。当たり前だけど、絵を描くデバイスとしては、液タブの方が性能が高い(表現できる幅が広い)。

 

例えば、液タブの性能を表す指標のひとつに「筆圧検知レベル」というものがある。要するに、この数値が高ければ高いほど、繊細なタッチで絵が描けると思ってくれていい。

有名なワコムのCintiqシリーズの筆圧検知レベルが「8192」なのに対して、iPad Proの筆圧検知レベルは「1000前後」と言われている(ただし真偽は不明)。つまり、両者の間には約8倍の性能差がある。

 

この筆圧検知レベルの差に関しては、線幅が均一なボールペンブラシでメモを取るぐらいの操作しかしないなら、筆圧の違いなんて感じないかもしれないが、繊細なブラシを使った時の差は歴然である。

 

例えば、僕がクリスタで愛用している「しげペン改」というブラシがあるんだけど、全く同じ筆圧設定にして、iPad Proで使ってみたところ、残念ながら、どう頑張ってもCintiq Pro(プロペン2)と同じ描き心地にすることは出来なかった。

凄く乱暴な言い方をすると、太く描写するか、細く描写するかの2択しかなく、Cintiq Proみたいに「太い線から細い線まで柔軟に描写できる」という器用さがiPad Pro(Apple Pencil)にはなかった。たとえるなら、Cintiq Proのような4K液タブは「実際に紙に描いているような感覚」であり、iPad Proは「パソコンのペイントソフトをペンで動かしている感覚」である。これは実際に使い込んでいけば分かると思う。

 

なので、ちょっとしたラフ絵を描くぐらいだったら、iPad Proでも良いんだけど、繊細な描き込みを求められる原稿作業には向いていない。少なくとも、僕はiPad Proの用途を「ネーム(ラフ・下書き)」「セリフ入れ」「原稿確認」の3つに限定しており、それ以外では使わないようにしている。

 

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はい。というわけで、漫画を描くデバイスとして、iPad Proってどうなの?って話でした。

 

僕の雑感としては、おそらく漫画やイラストを描く目的でiPad Proを購入した人のうち、60%の人が途中で飽きてやめてしまい、30%の人がiPad Proで満足し、残りの10%の人がiPad Proでは満足出来なくなって高性能の液タブとパソコンを買う・・・みたいな分布になっているんじゃないかと思っている(僕の勝手な想像です)。

 

なので、たぶん90%ぐらいの確率でiPad Proをオススメしておけば問題ないんだけど、「もっとクオリティの高いものが描きたい!」と創作熱が高まってきたときに、どうしてもiPad Proではスペックが不足しているため、その点だけ頭の片隅に置いときながら、とりあえずiPad Proを買えば良いと思う。そうなったらそうなったときに悩めばいいし。