箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

液タブとiPadを併用しながら漫画を描いた方が良いかもしれない。

僕は少し前に「ネームはiPadで描いた方が良い」という記事を書いた。

 

pochitto.hatenablog.com

 

以前までの僕は、ネームからペン入れまで、全ての作業を液タブだけで行っていたんだけど、今から2週間ほど前にパソコン(iMac2019, 21.5)の冷却ファンがイカれてぶっ壊れてしまい、泣く泣くiPadで作業を引き継いだところ、不幸中の幸いと言うべきか、iPadの良さに気づくことができた。

 

pochitto.hatenablog.com

 

結果だけで言うなら、パソコンが壊れてくれて良かったかもしれない(笑)

 

というわけで、本日はこの点をもう少し詳しく言語化し、「液タブのような大きな画面」と「iPadのようなコンパクトな画面」を併用しながら漫画を描くことの重要性というか、2つの異なるサイズの画面を使っていくことの利便性みたいなものを語っていきたい。

 

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たぶん、1〜2年前だと思うけど、とある漫画家の先生が、液タブの解像度を4Kに変更したところ、作業スピードが遅くなってしまったので、解像度をFHDに戻した・・・というツイートをされていた。

その先生曰く、4K解像度の液タブを使っていると、細かいところが気になってしまい、いつまで経っても作業が終わらず、作画ペースが激落ちしてしまった・・・ということだった。

 

実は、ここに「漫画」というコンテンツを作るうえでの罠があると僕は思っている。

 

最近のパソコンモニターは大きくて画質も良く、4Kが当たり前の時代になった。液タブもめちゃくちゃ進化したし、メーカーさえ選ばなければ、4K解像度の液タブが10万円ぐらいで手に入る。つまり、漫画やイラストの作業環境は数年前と比べて劇的に進化したと言える。

 

しかし、漫画やイラストを読む・見る側のデバイスはどうかというと、別に数年前と何ら変わっていない。

 

スマホなどの小さな画面で読むのが普通だし、もう少し大きな画面にこだわっている人なら、iPadとかKindle端末のようなタブレットで読むのが主流だろう。あるいは、今でも紙書籍にこだわっている人であれば、単行本を買って読む人もいるかもしれない。

つまり、いくらパソコンモニターや液タブが進化したとはいえ、30インチの5Kモニターで漫画を読む人なんてほぼいない(もし居たらゴメンね)。今も昔も、漫画を読む人のデバイスは6〜13インチ程度の小さな画面の中に収まっているのだ。

 

要するに、ここにギャップが生じてしまっている。漫画を描く側のデバイスだけが大画面・高解像度のデバイスへと進化している一方で、漫画を読む側のデバイスは進化しておらず、スマホが普及したことによって、むしろもっと小型化している。

 

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これが何を意味するかと言うと、大画面の液タブを使って、物凄く緻密かつ繊細な絵を描いたとしても、それを読んでいる人の画面は小さいので、漫画家のこだわりが100%伝わるわけではないし、先日のブログでも書いたとおり、大画面の液タブで絵を描くと、絵が小さくなってしまう現象が発生しやすいので、描いている本人は満足していたとしても、読む人の満足度が上がるとは限らない。

 

僕はパソコンで作業するときは、Cintiq Pro 24を使って作業するんだけど、このような大画面の液タブで絵を描くと、どうしても拡大して描くことが多く、ひたすら細部を描き込んでしまう傾向がある。解像度が高すぎるので、細かいところをこだわろうと思えば出来ちゃうからだ。結果として、24インチの4K解像度モニターに絵を拡大して表示することが多くなるので、その絵を「大きい」と錯覚してしまう現象が起きてしまう。

 

つまり、基本的には大画面の液タブを使って描けば良いと思うんだけど、全体のバランスを確認するとか、「実際に読む人にはどのように見えているのか」という視点を持つことがとても重要になってくる。そうしないと、自己満足に陥ってしまう危険性があるからだ。

 

そういう意味で、僕はiPad Pro 11インチを併用することにした。

 

 

iPad Proだけで漫画制作を完結させたいなら、12.9インチの方が良いと思うけど、あくまでも「ネーム用」とか「原稿確認用」と割り切るのであれば、僕は11インチが一番良いサイズだと感じている。

 

何でかと言うと、11インチというのは、単行本の見開きサイズとほぼ同じだからだ。

 

例えば、「iPad Pro11インチ」と「見開いた状態の単行本」を並べてみる。

 

↑このように、縦幅もほぼ一緒だし・・・・

 

↑横幅もほぼ同じである。

 

これをiPad Pro 11インチに重ねてみると・・・・

 

↑このようにピッタリと重なる。

 

比較対象としているのは、ジャンプの単行本だけど、たぶんマガジンとかサンデーとか、少年誌の単行本なら同じだと思う。

 

つまり、何が言いたいかと言うと、自分が描いた見開き原稿をiPad Pro 11インチの画面いっぱいに広げて見たときのサイズが、実際に読者が目にするサイズであり、たとえ液タブで表示したときに違和感を感じる絵だったとしても、iPad Pro 11インチで表示されている絵に違和感がなければ、それでOKということだ。何度も言うように、実際に読者が目にするサイズはこれぐらいだからだ。

 

ということは、その逆も言える。液タブでは違和感を感じなかったとしても、iPad Pro 11インチで違和感を感じるなら、その原稿はダメである。ちなみに、僕は液タブで描いた絵をiPadで見たときに、「やけに絵が小さいなー」という点に気付くことができたし、実際にこの違和感のギャップみたいなものは存在する。

 

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以上の点を踏まえて、僕は、今後の作業を次のように整理することにした。

 

まず、ネーム(セリフなどのテキスト入力も含む)は、iPadだけで行う。

この段階で確認しなければいけないのは全体のバランスであり、大きな画面で作業するよりも、小さな画面で作業した方が効率が良い。ネーム段階では緻密な絵を描くことを求められていないし、下書き・ラフ絵ぐらいだったら11インチで十分に描ける。絵の大きさだけでなく、絵に対するセリフの大きさなども確認しやすい。

 

次に、ペン入れや最後の仕上げ作業は、基本的に液タブで行いつつ、適宜iPadで原稿を確認する。

最後の仕上げ作業は、トーンを貼ったり・削ったり、テクスチャーを重ねたり、細かい線を入れたり、どうしても作業が緻密になってしまうので、大画面の液タブの方が作業しやすい。そして、自分の描いている絵が緻密になりすぎてしまうのを防ぐために、作業中の原稿を適宜iPadで表示させて、これ以上描き込むかどうかを判断する。

なお、僕はペン入れをしているときに、線の太さに迷うことが多いので、「iPadで表示させたときに違和感のない太さになっているならOK」という基準を設けることにした。要するに、液タブで表示されている手元の線を信じるのではなく、あくまでもiPadに表示されている線を信じる・・・というわけだ。これなら分かりやすい。

 

というわけで、液タブとiPadを併用するって話でした。