箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

物語の内容よりも先に描きたい絵を描き出していく。

いつの話だったかな。

確か、Twitterとかブログで読んだ話だと思うんだけど、何でも良いから思いつきで絵を描き始め、それが上手くいきそうならそのまま最後まで描き続けて、ダメそうならさっさと諦めて次の絵を描く…みたいな人がいた(ちょっと違うかも…だけど、ニュアンスとしてはそんな感じ)。

 

その人は、基本的に漫画の企画とかも同じ手法で作っていて、「気に入ったやつだけを描く」「色々描いている中から1〜2個ぐらい良い案が出てきたらラッキー」みたいなノリで絵を量産している人だった。

人によっては、こういうやり方に違和感を覚えると思う。本来、創作というのは壁にぶち当たりながらも、それを乗り越えていく作業であって、1つ1つの絵の完成度を丹念に上げていくものだからだ。だけど、個人的にこのやり方は「めちゃくちゃ理に適っている」と思っている。

 

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大体ほとんどの人が最初に脚本・プロットを考えて、その脚本の流れに沿って絵を考える。つまり、①物語の内容→②絵という順番で漫画を作る。

「だからどうした。そんなもん当たり前だろ」と言われてしまいそうだけど、個人的に、このやり方は漫画を描く上であまり効率が良くないんじゃないかと思っている。

 

断っておくと、かつては僕もそういう風に作っていた。というか、脚本を作り込み過ぎるぐらいに作り込み、完璧に練り上げた脚本に沿って、その内容に合う絵を考える…という順番で漫画を作っていた。まさに、①物語の内容→②絵という思考だったわけだ。

 

だけど、こういう順番で漫画を描くとどうなるかと言うと、物語の内容ありきの絵になってしまう。脚本を作っている時はあまり絵のことを考えていないし、絵のことを考えていない脚本に沿って絵を考えると、どうしても色んなところに無理が生じてしまう。

特に会話シーンなんかが顕著で、文字ベースで考えた脚本はどうしてもセリフ数が多くなるし、そこに無理やり絵を当て込むとバストアップのコマばかりになって、コマ割りが非常に窮屈になったりする。ただでさえ、初心者の漫画はセリフが多くなりがちだし、単調な絵に陥りやすいのに、それに拍車が掛かることになる。

 

つまり、先に脚本を作り込みすぎてしまうと(自分の描きたい絵ではなく、物語の内容から入ってしまうと)、面白みのない絵面になってしまって、作品の良さが死んでしまう…ていう感じかな。効率が悪いというか、正確に言うとそういうデメリットがある。

 

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だから、先に自分の描きたい絵をザーーっと描いていった方が、漫画としては見栄えが良くなる。…というか、圧倒的に描きやすい。

 

僕もネームを作るときは、いきなり原稿用紙にコマ割りをして、そこに絵を描いていって…という作り方をしない。何となく描きたい絵をざっくりと描き、それをベースにして、コマを付け足したり、サイズを変えたり、構図やデザインを考え直したりして、全体のバランスを整えていく。

こういう風に漫画を作っていくと、自分の描きたい絵・構図をメインに構成していくので、非常にまとまりが良いし、何より描いていて楽しい。セリフが多くなりがちな人にもオススメできる。

ただし、僕はデジタル環境で漫画を描いており、別キャンバスに描いたラフ絵を原稿用紙に切り貼りしたり、絵のサイズを変えたり…といった加工が臨機応変に出来るのに対して、アナログ環境では同じことが出来ないので、デジタル作業環境に限った話かもしれない。

 

ただし、①絵→②物語の内容という順番で漫画を描く場合、描きたい絵に合わせて物語の内容も微妙に変えていくことになるので、事前に物語の内容を編集者と共有しておかなければならない連載漫画家は難しいかもしれない。あと、時間的にもちょっと厳しいかも。