箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

万年筆で絵を描くことについて考えてみる(ボールペン・ミリペンとの比較)。

僕が知る限り、海外スケッチャーの間ではやたらと万年筆が人気であり、特に「LAMY Safari(サファリ)」とか「TWSBI ECO」が覇権を握っている(・・・気がする)。

試しに、Pinterestで「lamy safari sketch」とか「fountain pen drawing」と検索してみると、それこそ山のように海外スケッチャーたちの素敵な絵が出てくることが分かる。

 

その一方で、日本ではあまり万年筆で絵を描く人がいない。

 

もちろん全く居ないわけじゃなく、古山浩一さんという万年筆アートを専門にしている画家もいるし、Youtubeで検索してみれば、万年筆でスケッチ・アートを描いている方が一定数いらっしゃることが分かる。

 

 

ただ、その数は圧倒的に少ない。

仮に万年筆のことを取り上げている人がいたとしても、大抵は「文字の書き心地」に関するレビューであり、絵の描きやすさに触れている人はあまり居ない。

(僕が知らないだけで、そういうアーティストはたくさんいるのかもしれないが、どう調べても出てこなかった)

 

その一方で、「ボールペン」や「ミリペン」で絵を描く人は圧倒的に多い。

特に漫画・イラスト界隈では、ピグマやコピックマルチライナーのようなミリペンが大人気であり、漫画家の中にもミリペンを愛用している先生が多いと聞く。あるいは、本格的に漫画を描くとしても、Gペン(つけペン)を選択する人がほとんどである。

 

かくいう僕も、アナログで描くなら、ずーっとミリペン派だった。

こちらの記事でも書いたとおり、「万年筆はドローイング向きじゃない」と思っていたのだ。

 

 

と言うのも、僕は、PILOTから出ている「LIGHTIVE(ライティブ)」というカジュアル万年筆を最初は使ってたんだけど、そんなに描き心地が良いとは思わなかった。

線の強弱もつけられないし、紙との相性によっては、ニブ(ペン先)の走りも極端に悪かったからだ。文字を書くだけならまだしも、少なくともドローイング向きではないと思った理由はそこにある。

 

 

「インクを自由に変えられる」という万年筆の強みについても、そんなに何種類もインクを使い分ける必要性を感じず、自分が描きやすいと思っている黒系のインクが1種類だけあればそれで良かった。

また、万年筆でよく使われている水性染料インクは、耐水性がないため、線画の上から着色するということもできない。しかも、万年筆の場合、定期的なメンテナンスを必要とするため取扱いが面倒くさい。

 

要するに、ありとあらゆる面において、ボールペンやミリペンの方が上だと思っていた。

 

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しかし、「LAMYアルスター」や「LAMYサファリ」を使ってみたところ、万年筆に対する印象がガラリと変わった。

 

「そんなにLAMYがスケッチに向いているというなら、じゃあ試しに使ってみようじゃないか!」ということで、メルカリでEFニブ(極細)のLAMYアルスターとLAMYサファリを安く譲ってもらったのだ。

(ちなみに、極細と言いつつ、海外製の万年筆はそんなに極細ではない)

 

 

・・・そして、実際にLAMYでドローイングをしてみて、「なるほど、たしかに全然違う」と僕は実感するに至る。

 

LAMYは、グッと力を入れれば太い線になるし、フワッと力を抜いて線を引くと、ちゃんと弱々しい線を引くことができる。しかも、インクに濃淡が出るので、凄く味のある線になる(ライティブではこの表現はできなかった)。

 

僕は「ああ、だからスケッチによく使われているのか」と納得した。

 

 

なんというか、均一で濃淡のムラがないミリペンとは違い、ランダム感があって、凄く温かみのある線になる。

スケッチを描く人は、だいたいそういう線の人が多いんだけど、どうやって描いているのか僕の中でずーっと謎だった。ボールペンやミリペンとも違う。独特の風味。その謎がようやく少し解決したかもしれない。

 

また、インクの色を変えることにあまり意味を感じなかったけど、水筆やブレンダーペンで線を溶かしながら陰影をつけていくと、ふんわりとした印象の絵に仕上がる。ちょっとしたお手軽水彩スケッチを愉しむことも可能なのだ。これも万年筆の良いところだと思う。

 


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僕の場合、本番の漫画原稿やイラストはデジタルで描くため、そんなに本格的なドローイング用のペンを必要としていない。それこそ高級な万年筆・製図ペンなんて要らないし、Gペンも使ったことがない。

 

そういう僕にとって、LAMYアルスターやLAMYサファリは、価格・性能の両面において「丁度良い」と感じるカジュアル万年筆だった。

気軽に外に持ち出すこともできるし、まさに「簡単なスケッチ向き」という感じがする。デザインもカジュアルで愛着が湧いてくる。海外スケッチャーの間で人気が出る理由が分かる気がする。

 

その一方で、ミリペンの存在意義も再確認することができた。

 

ミリペンはインク濃淡にムラが出ない均一な線が引けるため、例えば、枠線を引きたい場合や、デザイン的な絵を描きたい場合に向いている。ペン画がその最たる例だろうか。

また、ランダム性のある線ではなく、均一で綺麗な線が描けるので、非常にコントロールしやすいのも特徴のひとつである。「0.03」といった超極細サイズを展開しているのも強みであり、細かい描き込みを必要とする漫画・イラストを描くのに向いていると感じる(万年筆はどうしても大雑把な線になってしまう)。

 

さらにミリペンはコスパも良い。インクを使い切っても、1本200円とかで買えるし、そこらへんの文房具屋で簡単に手に入る。

しかし、万年筆の場合は、そこらへんの文房具屋にはインクが売っておらず、大抵の場合はネットで注文するしかない。僕の好きなプラチナのカーボンインクは、少なくとも近所の文房具屋(ロフトや大規模書店の文房具コーナーも含む)には置いておらず、ネットで注文するしかなく、しかもタイミングによっては在庫切れだったりする。そのため、すぐに欲しい場合に非常に困ることになる。

 

以上をまとめると、ミリペン(ボールペン)と万年筆の違いはこんな感じだろうか。

 

  • ミリペン(ボールペン):安価で入手しやすく、細かい描き込みを必要とするペン画・イラストを描くのに向いている。ただし、線が均一になってしまうため、線だけだと単調に見えてしまう場合がある。
  • 万年筆:気軽に外に持ち運ぶことができて、線に強弱をつけたり、インク濃淡にムラが出来るような味のあるスケッチを描くのに向いている。ただし、インクが高価で入手しづらく、万年筆自体も定期的なメンテナンスを必要とする。

 

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じゃあ、僕はどっちが好きかと言われると、今の自分に合っているのは万年筆かなーという気がする。

 

さっきも言ったとおり、僕は本格的な絵を描く場合はデジタル(iPad・液タブ)で描くため、漫画・イラスト用のアナログペンを必要としていない。

以前までは、アナログで描くならミリペンが一番良いと思っていたけど、正直に言ってしまえば、敢えて紙にミリペンを使って絵を描く理由はなく、ほぼ同じことがデジタルで出来てしまうし、デジタルの方が便利・・・というのが僕の正直な感想になる。というか、モノクロ漫画の線画を描くなら、デジタルの方が圧倒的に表現の幅が広い。

 

しかし、万年筆は良い意味で、デジタルと差別化出来ていると感じる。デジタルでは表現できないインクの質感や、線の温かみや、水彩の滲みなどを表現できるからだ。

ミリペンみたいに均質な線を描いて、そこに着色するだけならデジタルでも再現できるが、例えば、水性染料インクで描いた線を水筆でボカしながら陰影をつけていくやり方は、おそらくデジタルでは再現できないと思う。デジタルにも、水彩筆ブラシとか色混ぜブラシはあるんだけど、絶対にアナログの質感には勝てないと僕は感じる。

 

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あと、最後に、万年筆は使い捨てじゃないのも良い。

 

ミリペンやボールペンだと、基本的にはインクを使い切ったら、そのペンとはお別れであり、次の新しいミリペンを買うことになる。しかし、万年筆は中身のインクカートリッジを交換したり、コンバーターにインクを補充しながら、ずっと同じペンを使い続けることになる。

 

だから、愛着が湧きやすい。つい先日買ったばかりなのに、LAMYアルスターやLAMYサファリがとても好きになったし、ついつい手に取って触りたくなる。この魅力はミリペンやボールペンにはない。

 

結局のところ、「絵を描いていて楽しい!」と思うものを使えば良いんだけど、今のところ、僕にとってはそれが万年筆なのだ。