箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

「漫画貧乏」が指し示す未来について考えてみる。

こないだブックオフに立ち寄った時に、佐藤秀峰先生が書いた「漫画貧乏」という本がふと目に留まって、この本をちょっと読んだのね。今日はその感想をちょっと。

 

漫画貧乏

漫画貧乏

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漫画だけで食っていける漫画家なんてほんの一握り、という話はあちこちで聞いていたし、別にそれ自体は驚く話ではないんだけども、佐藤先生は結構具体的な数字を挙げて、「いかに漫画家が貧乏であるか」ということを力説されており、むちゃくちゃ興味深い話だなーと思って読ませてもらった。その根底に、出版社に対する強烈な悪意(もっと言うなら憎悪)というか、「漫画業界を変革したい」という佐藤先生の強い意志を感じた。

 

ただその一方で、漫画出版もビジネスである以上、背に腹は代えられんというか、売上部数などの数字をめちゃくちゃシビアに見ているし、「編集部が上、漫画家は下」という旧態依然とした価値観が蔓延る古い体質の業界において、これを今更変えるのも無理だろうなと思う。漫画家全員がストライキを起こすとか、漫画家全員が韓国資本のウェブトゥーンに移籍するとか、そういった革命的な出来事が起こらん限り、出版社の下請けに過ぎない個人事業主たる漫画家は経済的に搾取され続ける運命にあるだろうな、と。

 

この現状を変えるためには、SNSでフォロワーを増やすなどしてネット上の影響力を身に付け、自力で漫画を売る…という選択肢を取る以外に無いと思う。現時点では。「漫画貧乏」の中にも、「そんなにお金の条件が気に入らないんだったら、自費出版をすれば良いじゃないか」と、編集者が佐藤先生に三行半を突きつける場面が描かれているんだけど、まさにそのとおりで、出版社を通して漫画を売るというシステムが気に食わないんだったら、出版社に頼らずに自力で漫画を売るシステムを自分で構築するしかない。そして、現にセルフプロデュースできる漫画家はSNS界隈にもチラホラと現れてきている。やしろあずきとか、ぬこー様ちゃんとか。

 

つまり、漫画家として飯を食いたいのであれば、副業で描いているような人を除き、出版社に経済的に搾取されながら身を粉にして漫画を描くか、そうでなければセルフプロデュース能力を身につけた人だけが生き残っていくということになる。

 

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ただね、SNSで注目される人って、ある意味で物凄く緻密に戦略を立てられる人っていうか、ネットの世界で目立つ方法を熟知していて、ネットコミュニケーションもめちゃくちゃ上手い…というイメージがどこかにあって、純粋な漫画の面白さだけではどうにもならん部分がある。

 

SNSでバズってる漫画が面白くないと言ってるわけではないけども、例えば、Twitterで漫画をバズらせようと思ったら、Twitter民の好みに合うように、ネタを厳選したり、絵柄を変更したりするだけでなく、Twitterアルゴリズムにも精通しておく必要がある。ぬこー様ちゃんのブログ記事を読んでいると、「リプ返し」とか「ブルーユーザーへの課金」とか、ある程度、Twitterに対して時間とお金を費やす必要があることが分かる。

 

nukoosama.livedoor.blog

 

まあ、僕のように「Twitterなんて面倒臭くてやってられん」というユーザーからすると、とてもじゃないけど同じことを真似できるとは思わない。つまり、(これは僕の勝手な言い分かもしれないけど)SNSでセルフプロデュースできないネット弱者たちを救うために、出版社はそういう人たちの作品を拾い上げていく必要があると僕は思っていて、そうやってSNSと商業誌の棲み分けを図るべきではないかと常々思っている。当然、そういう作品の中には、「バズっていないけど面白い作品」というのもあるわけで。

 

しかし、残念なことに、商業漫画とSNS漫画はどんどん同質化しており、「商業誌で売れる作品」=「SNSで注目される作品」という図式が加速しているように感じる。

例えば、ジャンプルーキーの閲覧ランキングのTOP10には、人気編集者である林士平さんが担当している作品が多くランクインするらしいんだけど、それは何故かというと、フォロワー数が20万人を超える林士平さんが、自身の担当作品をTwitterで宣伝ツイートすることによって、ブーストをかけているからだ。

 

結局、SNSの影響力によって「売れる・売れない」が決まる。これは商業漫画でも変わんないのだ。もはや。

 

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このような構造が歪だと言うつもりはない。ただ、この構造がデフォになっていけば、まずもって従来の漫画は駆逐される。本格的なストーリー漫画なんて付け入る隙もなくなり、SNSユーザーにウケる短ページのコメディ作品ばかりになっていくだろうなーと思う。現に間違いなくそういう傾向はあるのだから。

最近、「幼稚園WARS」という作品を読んだけれど、もし仮に、この作品を「最近Twitterでバズっている作品です」とオススメされたのであれば、僕はそれを信じただろうし、ジャンプ+で連載している作品だなんて露にも思わなかっただろう。

 

これが漫画業界が目指している姿だし、経済合理性を突き詰めていった先にある本来のあるべき業態なんだと思う。

佐藤先生は、近い将来漫画は無くなると言ったけれど、漫画出版がビジネススキームとして明らかにおかしいのは誰しもが分かっていて、漫画家が赤字になるような(採算が取れないような)漫画が市場から淘汰されていくのはもはや仕方ないと思う。描いてる側も読む側もハッピーになれないのだから。

 

だとすれば、出版社に搾取される人もいなくなって、最終的にはセルフプロデュースできる漫画家だけが残るのかな。