箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

年齢が理由で漫画持ち込みが断られてしまう話

久しぶりに創作関連の話題を。

 

最近、SNSで「編集部に持ち込みに行っても、年齢が理由で断られる」みたいなことを言ってる人がいた。その人は「年齢が理由で将来性が否定される」「作品ではなく、年齢しか見てくれない」と、いささか年齢のことを気にしているようだった。

言わんとしていることは分からなくもないけど、この人は、編集部への持ち込みを勘違いしているように思う。というか、商業漫画家としての営業活動を完全に誤解している。

 

まず、そもそも編集部への持ち込みは、「私の将来性を買って下さい」という超特殊な営業活動であると理解する必要がある。なぜ、これが超特殊かと言うと、ビジネスや営業の世界において、「将来性を売る」なんて普通はあり得ないからだ。

考えてみてほしい。家に訪問してきたセールスマンが、「この商品はまだ完成していないんですけど、将来的には絶対に良い商品になります。だから今のうちに買って下さい」なんて言うだろうか?もし、そんなことを言ってきたら「完成した物を持って来い」と思うはずだ。

 

そう。ビジネスの世界では「完成した物を持って来い」が普通なのだ。

 

しかし、そんなことを言っていたら、新人漫画家が育たず、漫画業界が衰退することになってしまう。そこで、編集者は忙しい仕事の合間を縫って、新人漫画家が持ち込んだ原稿に目を通すわけだが、本来そんなことを無償でやらなければならない義理はない

まだまだ未熟な若い作家だからこそ特別に許されているだけであって、ある程度年齢のいっている人が未熟な原稿を持ってきたら、「もっとクオリティの高い物を持って来い」と思われるに決まっている。何度も言うが、出版社は未熟な作家に対して無償で手を貸す慈善団体ではないのだから。

 

つまり、ある程度年齢のいっている人が、「私の将来性を買って下さい」「無償でネームを見て下さい」「これから担当編集者と二人三脚で作品を描かせて下さい」と言っている時点で、「その年齢になって、自力で作品が描けないのか?」と思われても仕方ない。

これが1つ目の誤解である。「年齢が理由で将来性が否定される」と言うが、将来性を売りにしているのがそもそもおかしい…という話なのだ。

 

そして2つ目に「作品ではなく、年齢しか見てくれない」という意見。これも誤解である。むしろ、編集者は作品 "しか" 見ていない。

先程のセールスマンの話に戻るが、実際に目の前で見せられた商品がめちゃくちゃクオリティの高い物だったら、それを持ってきたセールスマンが社会人1年目の新人だろうが、20年目のベテランだろうが、消費者は購入するに決まっている。それが欲しいのだから。

漫画業界も同じだ。「商品=作品」が全てであり、ぶっちゃけ面白ければそれで良い。面白い作品であれば、描いている人が中学生だろうが、還暦を迎えたおじいちゃんだろうが、どうでもいいし、読者はそんなこと気にしない。だから、編集者に突き返されたのであれば、それは単純に作品が面白くなかっただけだ。

 

以上をまとめると、ある程度年齢のいっている人は、将来性を売る時期は既に過ぎており、完成度の高い面白い作品を自力で売る時期に差し掛かっている…と言える。その時期に差し掛かっているのに、未だに編集者に「将来性を見てくれ」とお願いをしている時点で、編集者からすれば「そんなもの知らん。自分で開花させろ」という話なのだ。