最近、巷で「ジャンプよりも胸熱の少年漫画」と話題になっている作品がある。
それが、石山諒先生の「龍とカメレオン」(月刊ガンガンJOKER)だ。
僕は存じ上げなかったのだけど、石山先生はジャンプ出身であり、「三ツ首コンドル」「歪のアマルガム」といった作品の連載経験を持つ。
もっとも、ジャンプGIGA 2020 WINTERに読切漫画「墓守少年じゅじゅへんけい」を掲載したのを最後にジャンプからガンガンJOKERへと移籍された。調べてみたところDAYS NEOに作品を投稿されたのが移籍のきっかけになっているらしい。
驚きなのは、2022年5月にマッチングが成立し、それからわずか5ヶ月後の2022年10月に「龍とカメレオン」の連載を開始されていることだ。恐ろしく早い連載開始。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
―マッチングされてから連載開始までが非常にスピーディだと思います(マッチングが2022年5月、連載開始が2022年10月)。このスピード感はDAYS NEO史上でも最速レベルなのですが、どんな流れで連載に至ったのでしょうか?
樋口:マッチングした段階で僕も「これは連載にしたい」と思っていたので、すぐに連載会議に提出しました。石山さんが5話くらいまでのネームを既につくってくれていたので、7月頃には連載が決まっていたと思います。
石山:樋口さんから「連載が決まった!」って連絡をもらった時、実はまだ樋口さんと僕は一度電話したくらいで、直接会ったこともなかったんです。あまりにも早い連載決定だったのでビックリしちゃって。「本当ですか?」って半信半疑でした。スピード感が怖いくらいでしたね(笑)。
本作は大人気を博しており、2025年10月現在で7巻まで既刊、累計20万部以上を売り上げている。
ジャンプを去ってからたった2年で人気連載までたどり着いたのは素直に凄いと言わざるを得ない。今頃ジャンプの元編集者も悔しい思いをしてるのではないだろうか。
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というわけで、本作の感想を。
この作品の何が凄いかというと、石山先生の画力の高さとか、主人公・深山(花神臥竜)の熱血ぶりとか、色々と挙げればキリがないのだけど、僕は「圧倒的な読みやすさ」だと思っている。
まず、本作はバトル漫画でもスポーツ漫画でもないのに、印象的な大ゴマを効果的に駆使してダイナミックな画面構成になっているのが地味に凄い。こういうお仕事系の漫画は冗漫な会話劇になって、代わり映えのしない顔コマが続くことが多いのだけど、それが全くない。小さいコマで何をやっているのかよく分からんバトル漫画よりも、よっぽど少年漫画をやってると感じた。
また、近年の連載1話目はページ数が多い傾向にあり、50ページを超えることなんてザラなんだけど、本作1話目は49ページで収まっている。これだけ大ゴマを多用しているにもかかわらず、50ページ以内に収まっているのは適切に情報量(セリフ量)が調整されている証拠だ(現代を舞台にしているので、作者独自の設定・世界観を説明する必要がないというアドバンテージはあるが)。
そして、シンプルに響くセリフ。ここがもっとも凄い。ダラダラと語るのではなく、主人公の感情や意志をズバッと端的に言う。余計な説明(ノイズ)がなく、絵がダイナミックだから余計に主人公の魅力がダイレクトに胸に突き刺さる。べらべらと余計な会話ばっかりやってたらこんなことにはならない。
ゆえに、本作は圧倒的に読みやすくて面白い。最近読んだ漫画ではダントツで一番だと感じた。
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以下、僕が得た学びについて。
まず、石山先生は「小さく・細かくコマを割る」ということをほぼやらない。1ページ当たりのコマ数を3〜4コマぐらいにして、絵とセリフにメリハリを利かせている。大きく描くべきコマをとことん大きくしているので、どこに注目すればいいかが非常に分かりやすい。
そして、何度も言うようにセリフが短くて、パパっとシンプルに情報提示を済ませている。だから詰まるところがなく、テンポ良くページをめくっていける。テーマや企画も明確だし、キャラも非常に分かりやすい。
思うに、石山先生は、ジャンプ時代の連載打ち切りの反省や経験を活かして、「どうやったら読みやすい漫画・キャラが魅力的に見える漫画になるか」ということを徹底的に研究されたんだろう。それが作品の随所に見て取れる。画面構成を何も考えずに、ひたすらセリフを増やしている僕みたいな人とは明らかに違う。
漫画において重要なのは、見せるべきポイントを最低限に絞り、キャラの魅力をコマ割りで伝えていくことだ。読者は冗長な説明を聞きたいわけでもないし、作者が自分で考えたオリジナル設定に浸りたいわけでもない。キャラに共感したいのだ。凄い絵を見たいのだ。ストーリーに感動したいのだ。
石山先生の作品を読んでいると、その一番大事な部分に気付かされた。