箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

3年間の商業誌活動を踏まえて、結局自分がやりたいことは何だったのかを総括する。

少年誌引退宣言から1日。

 

恨み節をツラツラと書き並べたところで、今の自分の漫画が商業誌で通用しない事実に変わりはないけど、次のステップに進むにあたり、僕が商業誌に感じている感想をフラットな目線から語りつつ、この3年間の商業誌活動を総括してみたいと思う。

 

なお、僕は商業誌を批判したいのではなく、この総括を通して、「結局自分がやりたいことは何だったのか」という点を明確にしたいと考えており、それが本記事の目的となる。

 

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僕が思うに、商業誌でやっていきたいのであれば、何かひとつ飛び抜けたものを持っている必要があると感じている。

 

例えば、「画力がずば抜けている」とか、「キャラの魅力がすごい」とか、「ストーリー構成が神」とか、読者に何かしらのインパクトを与えることが必要不可欠であり、極端なことをいえば、ストーリーがめちゃくちゃで、絵もめちゃくちゃで、漫画として売り物にならないレベルだったとしても、度肝を抜くような100点の絵がひとつでもあれば、「粗削りで未熟だけど、インパクトを残せる作家」と評されるようになる。商業誌で求められている人材はそういう作家だ。

 

逆に、企画も60点、画力も60点、ストーリーも60点、キャラも60点、演出も60点・・・というような漫画の場合、大きな欠点はないものの、特にびっくりするようなインパクトも無いので、「普通」と言われてしまう。商業漫画において、こういう「平均的な作品」は最も価値がない。それだったら、「絵がめちゃくちゃ下手」みたいな作品の方が愛嬌があって魅力的だったりする。

 

んで、ここからが重要な話。

 

じゃあ、どういうポイントでインパクトを出すかなんだけど、商業漫画において最も重視されているのは「キャラクター」と「ストーリー展開」である。少年誌と青年誌で微妙に差異はあるものの、この2つが特に重要視されていることは多言を要しない。

その結果、商業誌においては、「なんじゃコイツ!?」と度肝を抜かれるような奇抜なキャラとか、「その展開は想像してなかった!」と吃驚仰天するような奇抜なストーリー展開とか、キャラとストーリーにおいて奇抜な作品が評価されやすい傾向にある。というか、ほぼそういう作品しかない。

 

特にエンタメ性が強く求められる少年誌においてはその傾向が顕著であり、極端なことを言うと、少年誌では、「ぶっちぎりの画力で描かれたバトル漫画」か、「奇想天外なキャラが出てくるギャグ・コメディ漫画」か、「可愛い美少女キャラに胸をキュンキュンさせるラブコメ漫画」の3つのジャンルしかない。「キャラ」と「ストーリー展開」でインパクトを出そうとすると、どうしてもこの3つのジャンルに偏ってしまうのだ。

 

断っておくと、僕はこの傾向が間違っていると言いたいわけではない。「今まで誰も見たことがないキャラやストーリーが描ける」というのは、その人の大きな武器だし、どんどんその武器で勝負すべきだと思う。

また、主要3ジャンルに偏っているのは、裏を返せば、それ以外のジャンルの需要がないということであり、商業的な観点から見たときに、需要が高いものに注力するのは当然の話である。

 

ただ、その一方で、インパクトを出せるなら、本来それはどんな形でもいいはずであり、キャラやストーリーに限らず、世界観とか、雰囲気とか、デザインとか、もっと違う手法に傾倒してもいいはずではないか・・・という思いがある。

例えば、樫木先生の「ハクメイとミコチ」のように、キャラやストーリー展開の奇抜さで勝負するのではなく、世界観を丁寧に掘り下げている作品も存在する。

 

 

こういう世界観重視の作品は、キャラやストーリー展開に強烈なインパクトがなく、エンタメ性には劣るものの、作家独自の「こだわり」や「雰囲気」という点に独特なインパクトがあり、コアなファンが出来るという特徴がある。要するに、決して万人受けはしないものの、刺さる人にはぶっ刺さるのだ。

ただし、僕の経験則上、こういう作品は、少年誌でウケることはほぼなく、かなりマニアックな青年誌でしかお目にかかることはないうえに、バトル漫画や恋愛漫画のように、いくつも枠があるわけではない。商業誌において最も冷遇されているジャンルのひとつだと言える。

 

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・・・さて、以上を踏まえて、自分のことを分析してみる。

 

僕は3年間の商業誌活動を経て、自分自身がキャラやストーリーの奇抜さで勝負できるタイプではなく、そこに何の興味もないということがハッキリと分かった。

自分の好みや適性でいうと、樫木先生と同じように、世界観の解像度の高さで勝負していくタイプだと思う。絵の好みで言っても、キャラのデザインとか、背景の緻密さに興味を惹かれるし、そこを伸ばしていきたいという願望がある。

 

ただ、上述のとおり、それは商業誌のトレンドではなく、少なくとも今の自分の実力ではノーチャンスであることも分かっている。僕が少年誌をいったん離れて、別のことをやりたいと思ったのも、それが一番の理由だ。

要するに、もし仮に世界観の解像度の高さで勝負するにしても、商業誌の方からオファーされるぐらいのレベルのものを描く必要があるし、そのレベルまで実力を高める必要があると考えている(必ずしも最終ゴールは商業誌じゃなくてもいいが)。

 

そのために、今は自分の表現をもっと磨きたいと考えている。実力不足なのに、現在の商業誌において需要のないことをグダグダと続けても意味はない。

 

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最後に。

 

以前から、自分の作風と商業誌のトレンドがズレてることは認知していたが、具体的にそれがどうズレてるのかを言語化することができず、新人賞に受賞したあとも、訳も分からず、商業誌のトレンドに合わせて作風を模索する日々だった。

しかし、ネームコンペに何度か挑戦する中で、商業誌で求められている漫画がどういうものなのかがよく分かったし、自分の作品のどこがダメなのかもよく分かった。この違和感を言語化することができただけでも、商業誌に挑戦して良かったと感じる。

 

この経験を活かし、自分がやりたいことに注力していこうと思う。今は新しい可能性が見つかったことにワクワクしており、これからどんな表現を模索出来るんだろうと胸をときめかせている。一歩ずつ、一歩ずつ。次に進んでいこう。