箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

モノクロ漫画を描くのに必要な「モノクロ色彩感覚」について。

僕は岩原裕二先生の絵が好きだ。

 

岩原先生の絵柄は、Wikipediaにも記載されているとおり、「スクリーントーンをほとんど使わずに、力強い線画による重厚な描き込みと、印象的なベタで全体を表現する画風が特徴的」であり、僕はこういう線とベタだけのモノクロ絵でしっかりとした印象を出せる作家さんこそ、「THE・漫画家」という感じがしている。鳥山明先生然り。

 

 

僕は漫画を描き始めた最初の頃に、岩原先生の作品に出会い、頭にカミナリを食らったような衝撃を受けてからというもの、ずーっと岩原先生の絵を真似しようとしていた。ただ、その当時は画力が低かったこともあり、どう足掻いても岩原先生のような絵が描けなかった。岩原先生の描き方は、細かい描き込みを省略し、少ない線とベタだけで絵を表現するので、画力の低い奴が真似しようとすると、絵の情報量が少なくなってしまい、思い切り下手に見えちゃうのだ。

 

今となっては分かる。この絵柄を目指そうと思ったら、大前提として「絵のデザイン性」と「立体感覚」と「モノクロ色彩感覚」が必要になる(・・・と、僕は思っている)。

 

鳥山先生の絵柄もそうなんだけど、線を省略して描くということは、言い換えると「線を省略しても見栄えが良い絵」ということであり、そのキャラの個性(髪型とか服装の特徴)をうまく掴んでいるということに他ならない。

例えば、松浦聖さんのキャラデザは、いわゆるちびキャラの頭身バランスであり、描き込みが少ない絵であるにもかかわらず、凄く良く見える。それは、キャラのシルエットとか、全体のバランスとか、言ってみればデザインが良いからだ。要するに、こういう線を省略した絵柄においては、「デッサン力」よりも「デザインセンスの良さ」みたいなものが問われている。

 

あと、線やベタを単純に描こうとすると、情報量が少なくなって、平面的に見えてしまうことが多い。普通は、キャラを立体的に見せようとすると、影をグラデーションにしたり、いくつも影色を使ったりするんだけど、岩原先生のような絵柄では、影をベタ一色で表現したり、場合によっては陰影を一切付けないことすらあるからだ。

そのため、この絵柄で描きたいのであれば、もともとの立体感覚が優れていて、立体的に見える構図や描き方を熟知している必要がある。実際、岩原先生や鳥山先生の絵は、中間色やグラデーションをほぼ使わないにもかかわらず、平面的な絵には見えない。その根底には、突出した立体感覚があるように思う。

 

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最後の「モノクロ色彩感覚」については、少し説明を要するので補足しておく。

 

僕は、最近見た作家さんの中で、新井すみこさんのモノクロ感覚が一番好きであり、白と黒の領域の作り方が凄く上手いと感じる。

 

 

新井さんの絵は、中間色(グレー)を多用しているので、純粋な意味でのモノクロ絵ではないが、白と黒をメインにしつつ、中間色(グレー)、アクセントカラー(イエローグリーン)の4色をバランス良く使うことによって、非常に引き締まった絵になっている。3〜4色ぐらいに色数を絞る方が絵がカッコよく見えるという原理を深く理解されているようにお見受けする。

 

このように、色数を絞り、白と黒のモノクロ2色で絵の印象をコントロールする感覚を「モノクロ色彩感覚」と僕は勝手に呼んでいる。

 

僕が思うに、このモノクロ色彩感覚は、モノやヒトを写実的に捉えるデッサン感覚とは別の感覚であり、目に見えている色を擬似的に「白」か「黒」に置き換えて、全体の印象をコントロールする感覚である。

先程の新井さんの絵にしても、左のカッコいいお兄さんキャラ(古賀さんという本当は女性キャラなんだけど)が履いている黒ズボンについて、光の当たっている部分が「白」で表現されているが、黒色のズボンに光が当たったからといって白に見えるわけではない。これは、写実性を無視して、敢えてハイライト部分の色を「白」に置き換えているといえる。これがモノクロ色彩感覚である。

 

他にも、例えば、鳥山先生のドラゴンボールに出てくる孫悟空は、山吹色の道着と青色のインナーシャツ・靴を着用しており、もしこの色をそのまま忠実に再現するのであれば、トーンを使うのが正しいのだけど、鳥山先生は敢えて山吹色の道着を「白」、青色のインナーシャツ・靴を「黒」に置き換えて、白黒の2色で表現している。これもモノクロ色彩感覚だといえる。

 

この「モノクロ色彩感覚」はかなり特殊な色彩感覚であり、漫画特有の感覚のように思う。少し前に、某イラストレーターさんのモノクロ漫画を拝見したのだけど、トーンを多用しすぎていて、絵全体の印象がボンヤリしてしまっていた。たぶん、「色」をそのまま中間色である「トーン」に置き換えたんだろうけど、色を正確に捉える能力と、漫画に求められる色彩感覚が全く別物であることを示した好例だと思う。

 

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かくいう僕も、色や陰影を写実的に捉えようとするクセがあって、その結果、トーンを使うことが多い。なので、色彩感覚的にはそのイラストレーターさんと同じだと思う。僕も大して変わらない。

 

しかし、その写実的な感覚を脱して、岩原先生のような絵柄を目指す場合、色や影もデザイン(デフォルメ)する必要があり、思い切って「白」か「黒」に置き換えるデザイン色彩感覚を身に着けなければならない。

これは、以前別の記事でも書いたけど、線画の内側の色を調整しようとするイラストの感覚か、白と黒のコントラストをしっかりと作ろうとするモノクロ漫画の感覚かの違いだと思う。

 

僕には、まだまだこの感覚がない。

 

僕は、このモノクロ色彩感覚を身につけるために、今は色々と試行錯誤中であり、研究の成果が出たら、そのタイミングで何か記事にしてみようかなと考え中。一歩ずつ進んでいこう。