箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

少年誌から青年誌に移る理由

このブログでは、去年10月頃から「青年誌に移籍する」と言い続けてきたけど、最近になってようやく「いったん少年誌はいいや」と踏ん切りがついた。

これは少年誌がダメだと言ってるわけじゃなく、自分の特性を考えたときに、一度青年誌に取り組んだ方が良いと判断したことによる。

 

まず、僕は、世界観というか、「その世界での暮らし」を掘り下げた方が良いと考えるタイプであり、この時点で少年誌との相性がすこぶる悪い。ほとんど大半の読者はそういう「世界のディテール」みたいなものに興味がなく、「キャラの魅力と関係ない」と判断してしまうからだ。

実際、「そのファンタジー世界にしかない料理」みたいなものを登場させ、それをストーリーと紐づけるような構成の漫画を描いたところ、某審査員(某有名漫画家)に「どうでもいい」「そんなことでキャラを好きになるわけじゃない」と一蹴されたことがある。そんなキツイ言い方ではないけど、ニュアンスとしてはそんな感じだった。

 

ただ、僕は、「キャラを好きになってもらう」というより、「キャラを含めた作家の感性を好きになって欲しい」という考え方で描いており、初めて漫画を読む子どもに、この作品世界にワクワクして欲しいという願いを込めている。僕の漫画の根底にあるのは、この「ワクワク感」だと思う。

もちろん、キャラと全く関係のない話に脱線すべきではないが、「端的にキャラのことだけ描いてくれ」というタイパ重視の大人読者に対してだけ漫画を描いているわけじゃない。

 

こういう観点から見たときに、作品知識をたくさん持っている成熟した読者しかいない少年誌で、相性の悪い漫画を描き続けることは悪手だと思うようになった。

 

また、キャラの魅力を伝えるにあたって、少年誌では「インパクト」が何よりも重視されるが、「バトル」「ホラー」「ギャグ」「お色気」といった派手要素だけで読者の興味を持続させるのは非常に困難であるうえに、同じようなことをやっている作家がわんさかいる業界なので、何か突出したものがない限り、読者の気を引くことすら出来ないのが現状である。

もちろん、そういう派手要素を一生懸命に磨いていけば、いつかは読者の気を引けるようになるのかもしれないが、当たるかどうか分からない宝くじを引き続けるようなものであり、しかも、技術力が伸びたとしても、「インパクトに頼った大味の漫画」が描けるようになるだけである。

 

 

一攫千金を狙って、そういうギャンブルみたいな漫画を描き続け、仮にその漫画がヒットしたとしても、その興味がずっと持続するわけではなく、その次もインパクトに頼った漫画を描き続けなければならない。つまり、インパクトに頼る限り、ずーーっとギャンブルを続けることになる。

果たして本当にこの方向性で良いのかと自問自答したときに、もし漫画を一生のライフワークにしたいのであれば、「インパクトに頼らずに、ちゃんとした漫画の技術を身に着けよう」と僕は考えるようになった。

 

***

 

また、キャラクターの心情を大雑把に表現していくことに対する「飽き」みたいなものが僕の中にあって、これも「もういいや」と思っている要因のひとつである。

すなわち、少年誌では、キャラの心情を「分かりやすく」「大げさに」表現しなければならない・・・という不文律があり、「グシャグシャになった顔のアップ」「自らの心情を叫ぶ」「大げさなアクション」といった陳腐な表現を、それこそずーっと擦り続けなければならない。

 

しかも、かつての少年漫画は、「悪に立ち向かう正義の心」とか、「強さへの憧れ」とか、「苦しんでいる仲間への優しさ」とか、そういうキャラクターの善性を切り取った作品が多かったのに、成熟した読者を満足させるために、近年の少年漫画はどんどん青年漫画化しており、タイザン5先生のように、「イジメ」「虐待」といった非常にネガティブなトピックを扱って、今までの少年誌にはなかったようなネガティブ感情の表現に「新しさ」を求めるようになった。

マガジンで連載している裏那先生の「ガチアクタ」も、主人公ルドを突き動かしているものは「復讐心」である。徐々に人間として成長していく過程が描かれているものの、作品全体を通して「理不尽な社会への不信感・怒り」が見て取れる。こういう負の側面を描かないと、今の読者は満足しないのだ。

 

 

もちろん、こういう風潮を全否定するわけではなく、色んな表現があって良いと思うが、初めて漫画を読む子どもでも安心して読めるものを提供すべき・・・と僕は考えており、そういう僕のスタンスからすると、もはや今の少年誌は自分の知っている少年誌ではないんだろうなと感じてしまう。

 

つまり、僕のように、「世界のディテールを見せながらキャラを掘り下げたい」「キャラの善性を切り取ったような漫画を描きたい」と思っている人間に、少年誌での居場所はほぼ無いと思う。少年誌で約1年半やってみて、そのことを痛感した。

 

僕は初めて漫画を読む子どもたちに「君が生きているこの世界は素晴らしいんだよ」と言ってあげたいし、そういう漫画を描き続けたい。そのために少年誌を離れる。