箱庭的ノスタルジー

世界の片隅で、漫画を描く。

自分の現状を踏まえて「デザイン性を磨く方法」について考えてみる。

前回の記事に引き続き、「デザイン的な上手さ」をどうやって追求していくのかを考えよう・・・という企画の第2弾。

 

(前回の記事はこちら)

 

最初に、前回の内容を掻い摘んで話すと、絵の上手さには「写実的な上手さ」と「デザイン的な上手さ」の2種類があって、作家性を出していきたいのであれば、「デザイン的な上手さ」が重要になるという話だった。これを分かりやすく(?)整理すると、こんな感じになる。

 

  1. 写実性重視→見る人に「上手い」という印象を与えやすい。ぶっちぎりの画力があれば問題ないが、資料ありきの絵になりがちであり、没個性的で面白みに欠けることが多い。絵を描く人の多くはこのタイプ。
  2. デザイン性重視→「上手い」とは感じにくいが、個性的かつ魅力的な絵になり、独自の世界観を伝えることができる。ただし、世界観やデザイン的視点を習熟させる必要があるため、個性を発揮するまでに手間と時間が掛かる。また、デザインは好みの問題なので、好き嫌いがハッキリと分かれてしまうという難点もある。漫画家で言えば尾田先生がこのタイプ。
  3. 写実性+デザイン性→上手いし、個性的かつ魅力的。絵描きにとっての究極の理想形。漫画家でいえば鳥山明先生がこのタイプ。

 

要するに、「1」だと意味がなく、今後自分の可能性を広げていくためには、「2」ないし「3」のタイプを目指す必要があるよねっていうのが前回のお話。

 

それを踏まえて、今自分がやりたいと感じていることや、伸ばしていきたいと考えている分野をグチャグチャ〜と書き並べていく。

 

自分の願望と理想と現在地

まず、自分の心がときめくものってなんだろうと乙女みたいなことを考えてみた。たとえ、デザイン性を追い求めることが重要だったとしても、自分がやりたくないことをやっても何の意味もないからだ。

 

そういう観点から言うと、僕は自分に一番合っている表現形式は「漫画」だと思っていて、最も極めたいと思っている表現もやはり「漫画」ということになる。

そして、僕が理想としているのは、鳥山明先生のように、写実性とデザイン性の両方を極めた絵であり、そういう絵で彩られた独自の世界観の作品を描くことが僕の究極の理想である。

 

ただ、その理想に到達するためには、今の自分のままではダメだということも分かっていて、ただ漫然と絵を描いていることに限界も感じている。と言うのも、僕は絵を描いていると、知らず知らずのうちに「上手く描こう」という意識が強くなってしまい、どうしても資料に依存してしまって、デッサンや資料に忠実な絵に落ち着いてしまう。まさに上記「1」のタイプである。

何度も繰り返しになるが、このタイプは、見る人に「上手い」という印象を与えやすいものの、資料ありきの凝り固まった作風になってしまう。極論を言ってしまえば、資料を再現しているだけであり、その人だけの独自性や個性を感じづらい。大暮維人先生や小畑健先生ぐらいの画力を持っていれば、それは「個性」と認められるけども、逆に言えば、そのレベルまで到達しない限り大成しない。

 

つまり、「写実性とデザイン性の両方を兼ね備えた個性溢れる漫画を描く」という理想を達成するために、写実性だけを追い求めるスタイルを卒業し、デザイン性を磨く方向にシフトすることが求められていて、そのために今何をすべきなのかを考えないといけない。これが僕の現在地である。

 

デザインの定義

そのうえで、僕が次に脳のリソースを割いて考えないといけないのが、「デザインとは何か」という本質的な問いである。

 

「デザイン」と一口に言っても、キャラクターデザインから、広告・商品パッケージの装飾まで、様々なデザインが世の中に溢れている。そのため、「デザイン」を包括的に定義することは困難だし、それをやる意味もあまり無い。

ただ、僕なりにデザインを定義するならば、「見る人の美的感性に訴えかける造形や記号」こそがデザインではないかと思っている。例えば、スーパーサイヤ人になった孫悟空の髪型とかがまさにそれで、あのツンツンと尖った金色に輝く髪を見て、我々は「強さ」や「猛々しさ」といったものを想起するわけだ。こうやって特定の感情を沸き起こさせるものこそがデザインであり、それがデザインの目的でもある。

 

もしそうだとすると、デザインにはある前提条件が必要となる。それは、見る人にこういう感情になって欲しいという「テーマ」だ。

例えば、イラストレーターの中村佑介さんであれば、「内側から溢れ出る可愛らしさ」とか「飾らない美しさ」といったものがテーマのように感じるし、キャラクターデザイナーの松浦聖さんであれば、「絵本のような温かさ」とか「思わずホッコリとしてしまう優しさ」がテーマのように感じる。本当にそのようなテーマを持っているかどうかはもちろん分かりかねるが、大事なのは見る人が何かを感じ取ることである。

 

NOW

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Amazon

 

つまり、言い換えるのであれば、自分の中にあるテーマを可視化・具体化し、それを見る人に伝えるための手段こそがデザインであって、その根底には「テーマを伝える」という目的がなければならない。これがデザインの本質だと僕は考える。

 

漫画表現単体の限界

では、デザインの定義が分かったところで、改めて自分の表現について考えてみる。

 

上述のとおり、僕が極めたいと思っている表現は「漫画」なんだけど、だからと言って漫画だけ描いていれば良いというわけではないと感じる。何故なら、僕はこの3年間ひたすら漫画だけ描いてきたが、「写実的な上手さ」ばかり伸びて、「デザイン的な上手さ」は全然伸びなかったからだ。

漫画を描こうと思ったら、どうしてもベースにあるストーリーの内容を無視することはできず、整合性の取れた絵を考えなければならない。そうすると、「デザイン性に優れた独創的な絵を描こう」と思っても、ストーリーの辻褄に合わせて自然と絵のインパクトが弱くなってしまい、資料に忠実な写実的な絵に傾倒していってしまう。これが長年の悩みだった。

 

他にも、商業漫画をメインでやっていると、モノクロの絵ばかりを描くことになって、色彩感覚が養われないし、コマ割りを前提に絵を描いているので、窮屈さを感じることも多かった。もちろん、僕にもっと絵の実力があれば、そういった制約を跳ね除けることが出来るんだけど、残念ながらそれだけの実力はなく、かと言って、漫画を描いているだけで実力が身に付くとも思えなかった。

 

それゆえに、僕が理想とする「写実性とデザイン性の両方を兼ね備えた個性溢れる漫画」を実現するためには、漫画以外の表現を磨く必要がある。僕はそう考えている。

 

今後の取り組み

以上を踏まえて、デザイン性を伸ばすために取り組んでいきたいことをまとめてみる。

 

①キャラクターデザイン

まず、デザインの中で僕が一番力を入れたいのがキャラデザであり、どれだけ独創的なキャラクターをデザイン出来るかによって、漫画の出来栄えは左右される・・・と僕は考えている。まあ、これをやらないと始まらないよねっていう感じ。最初は、画集やPinterestで見かけたキャラデザ等を参考にすると思うけど、徐々に自分だけのデザインを模索していきたい。

 

②イラスト(世界観のデザイン)

次に取り組んでいきたいのがイラスト。ただし、写実的な上手さだけを追い求めたイラストには何の意味も魅力も感じておらず、過去にはそういうイラストを描こうとしたこともあったけれど、そのうち自分のやりたいこととの齟齬を感じるようになってやめてしまった。

僕にとってイラストとは「世界観のデザイン」であり、例えば、前回の記事で紹介したナタリーさんの絵のように、テーマ性が伝わるイラストを通じて、世界観のデザインセンスを磨くことを目的としたい。ちなみに、僕は小尾洋平さんのイラストデザインがめちゃくちゃ好きで、こういうデザインセンスに物凄く憧れる。

 

 

ただし、漫画の実力を伸ばすという観点から見たときに、もっとも意味を見出しづらい分野であり、そのうち「やっぱり違う」と感じてやめてしまう可能性もある。一応、現時点で興味を持っているデザイン分野ということで挙げさせてもらった。

 

③コンセプトアート・ストーリーボード

最後がコンセプトアートやストーリーボード。これは要するに、構図やレイアウトのデザイン(映像のデザインと言っても良い)ということになる。ある意味で、漫画を描くために一番重要なデザイン要素であり、少し乱暴なことを言えば、ストーリーボードで考えた構図を組み合わせていったものがコマ割りになる。そう考えれば、ストーリーボードこそが漫画の原型と言えるのかもしれない。

ちなみに、僕にとって「Vision ストーリーを伝える:色、光、構図」がバイブル的な位置付けの本となっており、もっとこういうレイアウトの技術やデザインセンスを磨いていきたい(全然出来ていないので)。

 

 

また、構図・レイアウトのデザインとは、キャラクターや世界観のデザインと写実性を融合させるということであり、僕が理想とする「写実性とデザイン性の両方を兼ね備えた個性溢れる漫画」は、このステップを踏んで初めて結実するといえる。

 

むすびに

前回も取り上げた「見えるものを描かず、見えないものを描く」の著者・マテウシュ・ウルバノヴィチさんも言及していたけども、写実性を追い求める「1」のタイプの作風の場合、最初は上手くなっていくことに面白さを感じるものの、そのうち「資料を再現しているだけではないか」と思うようになって、面白さを感じられなくなる。

僕は今まさにそんな状態であり、ただ単に上手い絵を描くだけでは何の面白さも感じず、引いては創作のモチベーションが下がって、漫画に対する意欲も減退してしまっていた。

 

んでもって、少し前に、「最善の創作活動のあり方」を見直し、自分が「好き」「心地良い」「ホッとする」「ワクワクする」とポジティブな感情になれるコト・モノ・ヒトを収集していって、それらを漫画やイラストに昇華させる創作スタイルを考案してみたものの、これもうまくいかなかった。

何故なら、これも結局のところ、写実性を追求する「1」のタイプに分類されるものであり、自分が見たもの・触れたものを絵の中に再現しているだけだからだ。その結果、少し取り組んでみて、僕はすぐに「面白くない」と感じるようになってやめてしまった。

 

 

こういう経験を経て、僕はやっと気がついた。僕はただ上手い絵を描きたいのではない。デザインを考えるのが好きなのだ。もっと言えば、自分の中にあるテーマをデザインを通じて伝えたいのだ。その先に、本当の意味での自分の理想がある。

 

というわけで、次回は、改めて自分の創作活動のスタイルを振り返り、使用するツールとか、具体的な作業フローとかを検討してみたい。